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EXILEはなぜ愛される?その5 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 ここまで、Exileがやってみせた業績にはふたつの「物語」が付帯していることをお話しました。

「敗者が復活して勝者になる」と「旧弊に満ちた世界を若者が独力で改革する」です。この物語は、2000年代の日本社会が望んでも手に入れることができない「夢物語」です。深層心理学でいう「ファンタジー」と言い換えていいでしょう。EXILEはこうした大衆が望む「ファンタジー」を音楽と共に届けたからこそ、多くの人々が彼らを愛するようになったのではないでしょうか。

 申し遅れましたが、ここで重要な点を確認しておきましょう。大衆の側も「ファンタジー」を共有していることです。

 といっても、大衆は「よし、ぼくは敗者復活戦に勝ってEXILEのように成功するぞ」とか「EXILEのように旧態依然とした社会を改革しよう」と意識して行動しているわけではありません。「ファンタジー」は意識の下、これも深層心理学でいう「無意識」の領域に潜り込んでいて、人々はそれを意識することはありません。無意識は、水面の下に潜った氷山の下部のように、外からは見えません。しかし無意識は、知らないうちに(文字通り無意識に)人間の行動を動かしています。こうした「無意識」が存在することを発見したのはフロイトという精神分析学者ですが、細かい内容には立ち入りません。

 つまり大衆は知らないうちにある「物語」を無意識の中に共有している。この大衆が共通する無意識を「集合的無意識」と呼びましょう。ちょっと難しい言葉ですね。私の造語ではありません。フロイトと並ぶ深層心理学者・ユングが提唱した言葉です。世界の神話や宗教説話を研究したユングは、文化や言語の違いを超えて、どれもがよく似た物語構造を持っていることに気付きました。こうした世界の神話に共通する要素を「元型」と名付けたユングは、文化や言語という意識の世界の下に、人類共通の「無意識」が横たわっているのではないかと考えた。これが「集合的無意識」の意味です。

 私がいまここで言う「集合的無意識」は、ユングのような「世界共通、人類普遍」というような大きな概念ではありません。少なくとも日本社会では、大衆はその時代ごとに共通の「物語」を無意識に共有しているのではないか。そう仮定すると、いろいろな現象が非常に合理的に説明できるのです。

 大衆の側には、無意識に共有している「物語」がある。EXILEのように、その「物語」に共鳴する対象が現れたとき、大衆はその対象を受用しようと集団行動を起こす。EXILEのような音楽という商品なら、CDを買う、コンサートに行くなど「消費」という行動をいっせいに起こす。ホリエモンは人間なので消費するのが難しいのですが、EXILEはその物語に参加するための商品がふんだんに用意されています。この「物語の共鳴」こそが実は400万枚もCDが売れたりする集団行動の正体なのではないでしょうか。



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EXILEはなぜ愛される?その4 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 もうひとつExileがまとう物語「旧弊に満ちた世界を若者が独力で改革し、勝者になる」はどうでしょうか。

 こちらも言うまでもありませんね。「ロスト・ジェネレーション」以降の若者層がいま悪戦苦闘しているのは、自分たちより上の世代が強固に作り上げた既得権益の体制を突破することです。そして、それによって自分たちが犠牲者=敗者を脱することなのです。

 そんな動きに、ロスト・ジェネレーション層は常に拍手を送ってきました。平成不況まっただ中の1990年代末、多くの若い経営者がITベンチャー企業を興して台頭した時には「ITバブル」と呼ばれるほどのミニ好景気が生まれました。これも一例です。

 その一人「ライブドア」のCEOだった堀江貴文(ホリエモンと言ったほうが早いですね)は1972年生まれ、まさにロスジェネど真ん中です。

 05年にニッポン放送の経営権をめぐってフジテレビと互角の勝負を繰り広げたり、衆議院議員選挙で亀井静香と死闘を演じたときも、誰よりも快哉を叫んだのは、同じ世代の若者でした。議員選挙や民放テレビといった長年墨守されてきた既得権益の世界で、たった一人自力で起業した若者=ホリエモンが、老人たちと対等に渡り合う姿は、さぞや爽快だったはずです。

 勝てなくとも、彼が老人たちを翻弄するだけでも、胸がすかっとしたのではないでしょうか。それはホリエモンが、ロスジェネの若者が望んでも手に入れることのできない「物語」=「旧弊に満ちた世界を若者が独力で改革し勝者になる」を具現していたからです。

 しかしそのホリエモンも06年には東京地検に逮捕されてしまいます。そして2度の有罪判決を受け、今なお最高裁での判決を待っている。旧弊を改革しようとした若者は「東京地検」という「大人の権威」によってたたきつぶされてしまったのです。

 気の毒なことです。いえ、ホリエモンが、ではありません。彼に「物語」を見いだした多くの若者が、です。彼らを待っていたのは「幻滅」「絶望」でした。「やはりこの社会は老人ばかりがおいしい思いをして、俺たちは負け続けなのか」。そう思ったことでしょう。

 EXILEがやってみせたこと=自分たちのマネージメント会社を興して音楽業界で名乗りを上げること=は「若者が独力で旧弊に満ちた世界を改革する」という物語の構造がホリエモンと酷似しています。しかもホリエモンとちがって、Exileは成功している。居並ぶパワフルなマネージメント事務所を蹴散らし、ドームコンサートを満杯にし、音楽賞を総なめにしている。いやそれどころか、ファッションブランドや月刊誌まで出しています。若者ならこう思うことでしょう。「おお、すごいな」「こんなふうになりたいな」と。

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EXILEはなぜ愛される?その3 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 こうした「物語消費」は音楽の世界でも起きています。

 ここで話をEXILEに戻しましょう。一回目の本欄でEXILEについて三つの事実をお話ししました。ひとつ、彼は08年一人勝ちといってもいいほどの大成功・大人気を集めたこと。日本の大衆はそれほど情熱的に彼らを愛したのです。その彼らは「復活した敗者」だった。しかも自分の会社を起業することで旧弊に満ちた音楽業界の慣習を突破してしまった。ここにひとつの「物語」を見いだすのは私だけでしょうか。

 社会環境を見回してみましょう。1992年にバブル景気が崩壊してから、日本経済は泥沼のような平成大不況をはいずり回っています。やや光が差したかと思ったら、07年から08年にかけてアメリカ発のサブプライムローン危機という大津波が押し寄せ、またすべてが暗転してしまいました。

 ここで問題なのは、こうした経済危機を迎えた日本社会そのものが、もはやかつてないほど変質してしまっていることです。かつて日本は「1億総中流」という所得格差の小さな社会を誇りにしていたのですが、今は「格差社会」が当たり前の認識になっています。

 中でも危険なのは「持てる者」と「持たざる者」の対立が世代間対立の様相を呈していることでしょう。

 高度経済成長を支えた「終身雇用制度」の破壊が中途半端で、すでに正規雇用されていた中高年層の雇用が既得権益として守られた結果、雇用調整のしわ寄せは若者層により過酷でした。92年の平成大不況=就職氷河期に社会に出た新卒者「ロスト・ジェネレーション」はこうした若者層(といっても上はもう39歳なのですが)を指します。「非正規雇用」という雇用形態はこの年代層を多く含みます。彼らは「一度クビになって転落するとホームレスまですぐに落ちる」という「板子一枚下は地獄」の生活にいます。まさに「いったん敗者になると、どん底まで落ちる」という「敗者復活戦なき時代」に今の20〜30代は生きているのです。

 ここでEXILEが「復活した敗者」だったことを思い出してください。その彼らのCDを買う人が400万人以上いるという事実は、見落としてはならないと思います。EXILEのほかにも、歌やダンスのうまいグループはいくらでもいます。EXILEがそうした「製品内競争」でそれほど飛び抜けて優れているとは思えない。なのにEXILEだけが一人勝ちしたのはなぜなのでしょう。

 EXILEは、大衆が望んでも現実には手に入れることのできない「復活した敗者」という「物語」をまとっていたのではないでしょうか。大衆はその「物語」を含めてEXILEという商品を消費したのではないでしょうか。私はそう考えます。

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EXILEはなぜ愛される?その2 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 前回「物語」という言葉を最後に出したので面食らわれた方も多いのではないでしょうか。

 どうして音楽や歌手が「物語」を聴き手に伝えるんだ? 音楽が流行するのは、メロディや歌詞が大衆の気に入るからじゃないのか? そう思われるのではないでしょうか。

 もちろん音楽が流行するのに、メロディや歌詞が大事なのは言うまでもありません。が、私は敢えてそうした「レコードの上に記録された音楽」を視野の外にいったん置いてみたいのです。

 これはあながち荒唐無稽な試みではありません。いま、例えばEXILEにせよ、音楽だけでそのミュージシャンのことを好きになる人の方が、例外的な少数なのではないでしょうか。

 そのファッションを雑誌で見ることもあるでしょう。華々しいダンスやステージ装飾をDVDで見ることもあるでしょう。インタビューやトークをテレビ・ラジオで聞くこともあるでしょう。そしてもっと熱心なら、インターネットの検索エンジンでメンバーのバックグラウンドを調べたり、ファンのコミュニティサイトで情報交換したりする人もいるのではないでしょうか。

 善し悪しは別にして、私たちはいま、音楽をこうした「多面的な情報の総合体」として受け取る情報環境の中で暮らしています。レコードだけでなく、テレビ・ラジオ放送、DVD、インターネットなど、多様なメディアが音楽以外の重層的な情報を運んでくるからです。もはや「音楽が音楽だけで独り立ちすることはできない情報環境」に21世紀の日本人はいます。

 これは音楽だけに限ったことではありません。どんな商品も、その商品のファンダメンタルな価値だけでは競争できません。

 例えばスーパーでタマゴや野菜を手に取ってください。「××県○○村の農家△さんがつくりました」と顔写真までパッケージに印刷されていますね。タマゴや野菜の品質が完全にイコールと仮定するなら、こうした「物語」という情報が付いている商品の方が消費者に好まれ、売れます。

 いや、品質の差が分かりにくい商品ほど「物語」が付帯しているほうが有利といった方がいいでしょう。こうした商品の売り方をマーケティングの世界では「物語消費」と呼びます。一種の「製品外競争」ですね。

 もっと分かりやすい例に「エコ家電」があります。不思議なことですが、エコ家電では、その製品がどれほど地球環境に寄与しているか、厳密に測定され、表示されたりしているわけではありません(エコを偽装表示して問題になった冷蔵庫がありましたね)。

 「エコ家電」というジャンルでは、地球環境保護への貢献度で性能競争が行われているわけではない。「エコ」はそうした「製品内競争」ではないのです。消費者が求めているのは「自分がエコ家電を買うことで地球環境保護の手助けをする」という「物語」なのです。

 エコ家電を買う人は、冷蔵庫やエアコンを買うと同時に「エコに寄与している」という物語をも一緒に消費しているのです。製品の性能差が僅差になり、分かりにくくなるほど、こうした付帯する「物語」が消費を決める重要な要素になります。

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EXILEはなぜ愛される?その1 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 「EXILE」(エグザイル)という14人組の歌・ダンスのユニットがいます。

 名前くらいは聞いたことがおありかもしれません。「ユニット」って何だとか、どんな音楽をやっているんだとか、いろいろご疑問はおありでしょうが、ここではとりあえず知らないままで結構です。このEXILEについての考察に入る前に、まず次のような事実だけ、知っておいてください。

(1) EXILEはいま日本のポピュラー音楽界ではトップスター級の人気者だということ。

コンサートを開けばドーム級の会場を楽々と満員にしてしまいます。09年3月に日本レコード協会が発表した「日本ゴールドディスク大賞」(08年のレコード会社からの出荷数マイナス返品数を元に集計)では、一年間にもっとも売り上げ金額の多い「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に輝いています。

売り上げベスト10アルバムにも、浜崎あゆみやB’z、安室奈美恵といったベテラン勢と並んでアルバムが3枚も入賞しています。CDの売り上げは421万枚を超えたとのことです。この10年で市場規模が半分に減るという大不況に苦しむ日本のCD市場にすれば、これは驚異的な数字。08年邦楽のマーケットはEXILEの「一人勝ち」だったといっても過言ではありません。

(2)  EXILEは日本の芸能界では珍しい「復活した敗者」です。

リーダーの「HIRO」こと五十嵐広之は、1989年から95年まで「ZOO」という歌とダンスユニットで活動していました。アルバムを12枚出し、テレビドラマの主題歌やCMにも曲が使われていましたから、日本のポピュラー音楽界では立派なキャリアです。

ところがZOOは解散してしまい、五十嵐も人気の頂点からどん底に落ちます。日本の芸能界は「一度転落した人気者」には冷たい。だいたいの人は周囲の手のひらを返したような仕打ちに耐え切れず、退場していきます。ところが五十嵐はそのどん底からまた人気のトップにはい上がり、返り咲きました(ですから彼は1969年生まれと年長です)。これは日本の芸能界では希有のことです。

(3) このカムバックに際して、五十嵐はもう一つ「ありえないこと」をやってのけています。

それはマネージメント会社を自分で起業してしまったことです。現在の芸能界はジャニーズやバーニングといった強力なマネージメント会社が群雄割拠していて、マスメディアやレコード会社、広告代理店に強固なネットワークを築いている。そこに新参企業が割り込もうとしても、普通は嘲笑されるだけで相手にされません。その旧態依然として芸能界のしきたりを、五十嵐はひっくり返してしまいました。これも希有のことです。

 さて、こうした事実を出発点に、大衆はEXILEにどんな「物語」を読み取ったのか、考えていきましょう。

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