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EXILEはなぜ愛される?その3 [東京(中日)新聞連載アウトテイク]

 こうした「物語消費」は音楽の世界でも起きています。

 ここで話をEXILEに戻しましょう。一回目の本欄でEXILEについて三つの事実をお話ししました。ひとつ、彼は08年一人勝ちといってもいいほどの大成功・大人気を集めたこと。日本の大衆はそれほど情熱的に彼らを愛したのです。その彼らは「復活した敗者」だった。しかも自分の会社を起業することで旧弊に満ちた音楽業界の慣習を突破してしまった。ここにひとつの「物語」を見いだすのは私だけでしょうか。

 社会環境を見回してみましょう。1992年にバブル景気が崩壊してから、日本経済は泥沼のような平成大不況をはいずり回っています。やや光が差したかと思ったら、07年から08年にかけてアメリカ発のサブプライムローン危機という大津波が押し寄せ、またすべてが暗転してしまいました。

 ここで問題なのは、こうした経済危機を迎えた日本社会そのものが、もはやかつてないほど変質してしまっていることです。かつて日本は「1億総中流」という所得格差の小さな社会を誇りにしていたのですが、今は「格差社会」が当たり前の認識になっています。

 中でも危険なのは「持てる者」と「持たざる者」の対立が世代間対立の様相を呈していることでしょう。

 高度経済成長を支えた「終身雇用制度」の破壊が中途半端で、すでに正規雇用されていた中高年層の雇用が既得権益として守られた結果、雇用調整のしわ寄せは若者層により過酷でした。92年の平成大不況=就職氷河期に社会に出た新卒者「ロスト・ジェネレーション」はこうした若者層(といっても上はもう39歳なのですが)を指します。「非正規雇用」という雇用形態はこの年代層を多く含みます。彼らは「一度クビになって転落するとホームレスまですぐに落ちる」という「板子一枚下は地獄」の生活にいます。まさに「いったん敗者になると、どん底まで落ちる」という「敗者復活戦なき時代」に今の20〜30代は生きているのです。

 ここでEXILEが「復活した敗者」だったことを思い出してください。その彼らのCDを買う人が400万人以上いるという事実は、見落としてはならないと思います。EXILEのほかにも、歌やダンスのうまいグループはいくらでもいます。EXILEがそうした「製品内競争」でそれほど飛び抜けて優れているとは思えない。なのにEXILEだけが一人勝ちしたのはなぜなのでしょう。

 EXILEは、大衆が望んでも現実には手に入れることのできない「復活した敗者」という「物語」をまとっていたのではないでしょうか。大衆はその「物語」を含めてEXILEという商品を消費したのではないでしょうか。私はそう考えます。

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