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ボネガットさん、映画「ドレスデン」見てから逝かれました? [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

070423カート・ボネガットと映画「ドレスデン」

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 1945年2月13日から3日間で2万5000から4万人の市民が命を落とし、「ヒロシマ・ナガサキに次ぐ連合軍による非戦闘員の大量殺戮」と呼ばれたドイツ・ドレスデンの無差別爆撃(わたしゃ東京空襲の方がひどいと思うけど、『残酷比べ』しても無意味なので深入りはやめときます)をドイツ人自身が映画にしたというので、こら見に行かなあかん、と四月二十一日の公開を心待ちにしておりましたら、わわ一体何としたことでしょう、アメリカ人作家のカート・ボネガットが十一日に八十四歳で死んでしまいました。

 ううむユング先生、シンクロニシティ(必然性のある偶然)ってホントにあるんですね。

 何のこっちゃわからん? すんません。

 ボネガットは、ドレスデン空襲の生き残りなんです。

 一九四四年十二月、米陸軍の歩兵だった彼は、ドイツ軍が連合軍をメタメタにやっつけた最後の戦闘として有名な「バルジの戦い」で捕虜になり、ドレスデンに送られます。ドレスデンは十六世紀以来の古都、パリにも似た優美な街で、まだ空襲にも無傷でした。

 が、彼らの住まいは屠畜場のブタ小屋。しかし運命というのはわからんもんで、大空襲の夜、ボネガット青年は地下の冷蔵倉庫に飛び込み、皮を剥がれぶら下げられたウシに囲まれ(文字通り)皮肉にも自分の友軍が繰り広げる猛爆撃から命拾いします。

 戦後母国に戻った彼は新聞記者をやったりセールスマンをやったりのあと、一九五〇年作家としてデビュー。

 そして六九年に発表したのが、ドレスデン空襲をヒントにした代表作「スローターハウス5」(彼が生き延びた屠畜場の名前)でした。折しも世はベトナム反戦運動華やかなりしころ、この小説は反戦平和小説として拍手を持って迎えられます。

 んでまあ、小生も読んでみたことがあるんですが、これはそんなおめでたい小説なんかじゃない! 

 時間の流れの束縛から解放された主人公ビリー・ピルグリム(巡礼者の意味)が、何と自分の人生を未来から過去へ行ったり来たり。

 大富豪の娘とシヤワセに結婚したかと思うと、なぜか突然UFOが現れ拉致誘拐、トラルファマドール星人の動物園に収容されすったもんだ、そして最後にドレスデンで無差別爆撃が炸裂。

 おい、一体何やねん、これは。

 あぐぐ、ヒョーロンカ風にいえばですね、自由奔放な空想力の圧倒的な爆発。

 まあここだけの話、もうムチャムチャ、支離滅裂の一歩手前ですな。ははは。

 小生も最初、一読したときは「これはアッチ側へ行てもうた人の書いた話やな」と思いましたよ、正直言って。

 だが。よくよく読むと、あちこちに人間の残虐さ、偽善への諷刺や憎悪がちりばめられている。

 支離滅裂なのは、それをユーモア、ギャグで表現しているからなのです。

 そのせいか、ボネガットのファンは「爆笑問題」の太田光や、不条理まんがの天才・榎本俊二など、ねじれたユーモリストが多い。

 映画「ドレスデン、運命の日」で我々は、ボネガットが目にしたであろう大量破壊・大量殺戮を追体験できます。焼け焦げた石くれの砂丘になった街。かつては生きた人間だった炭人形の山。涙。絶望。

 これを見て小生、はっと思い当たった。”Slaughter”には「屠畜」のほかに「大虐殺」という意味があることを。

”Slaughter House”=「虐殺の家」。これ、地球のことちゃうんか。彼が描いたあほな人間どもは、今も破壊と殺戮を一向にやめないではありませんか。

 ボネガットさん、この映画、見てから逝かれました?


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  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1978/12
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