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女性が武装解除する儀式がない ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

職場の中で、どこまでくつろいだ素顔をさらけ出していいものか。

働く女性にとってこれは悩ましい問題である。

いつもフォーマルな堅苦しいつきあいばかりでは、打ち解けたチームワークなどできない(まして、あわよくば職場でカレシをゲットしようなどという野望はかなえられない)。

男性社員同士はすぐ仲良くなっていくのに、自分はいつまでも距離が縮まらず、何となく仲間はずれにされているような気さえする。そんな女性は多いのではないか。

じゃあ実際どうするといえば「競争原理の中で勝って認められる」「飲みにいく」「一緒にゴルフをする」「カラオケをする」など、悲しいほど古くさい。

昭和の高度経済成長期、男性サラリーマン社会から何の進歩もないではないか。

つまり今の日本の企業共同体では、女性が「よりよい労働者」になろうとして組織文化を受け入れていくと「文化的に男性になる」しか選択肢がないのである。

この有様を指して「日本の資本主義社会は成人男子しか想定していない」という名言を放ったのは社会学者の上野千鶴子だ。

女性の企業進出が本格化した1990年代初頭、漫画家の中尊寺ゆつこが描いた「オヤジギャル」はまさに「文化的に男性になった女性たち」だった。

その後、こうした女性サラリーマンはごく当たり前の存在になり、中尊寺が描いた「駅で立ち食いソバを食う」「疲れたらユンケル黄帝液を飲む」「電車でスポーツ新聞を読む」女性は、20年後の今では驚きの対象にならない。

本欄でも何度か書いているように、女性が日本の企業社会に男性と対等の労働者として参入したのは、たかだか1986年のことにすぎない。

それまで明治維新以来、日本の企業共同体はずっと「男性純血主義文化」であり、組織の構成員に女性が入ることを想定していなかった。そこに参加してまだ24年なので、女性が企業共同体の構成員としてくつろいだ関係を同僚と構築する(例えて言うと『武装解除』する)儀式がまだ確立されていないのだ。

例えばの話。私がかつて勤務していた新聞社はおそろしく古風な会社で「部ごとの一泊温泉旅行」というのが年に一回あった。お金を積み立てて伊東温泉だ伊香保温泉だと半日かけて繰り出し、昼間はハイキングにテニスにゴルフにとリクリエーションに精を出し、大浴場で揃って汗を流したあとは、部長もデスクも浴衣に着替え、大広間にずらりと並んでお膳に並んだ温泉料理を食うのである。もちろんみなさん飲酒酩酊、コントあり福引きありと笑い歌い踊り騒ぎ、さらに二次会はカラオケに突入、部屋に散って徹夜で麻雀と、毎年飽きもせず狂騒状態だった。

最初は一体何のために休日を犠牲にして会社のオッサンどもと宴会旅行に行かなアカンのじゃと怒っていた私も、次第に「これは文化人類学的におもしろいのではないか」と思うようになった。

騙されたと思ってスポーツに興じ、スッポンポンで風呂に入り、浴衣一枚パンチラの酔っ払いオヤジと猥談などして騒いでいると、不思議だが確かに仲良くなっちゃうのである。

「上司/部下」「先輩/後輩」というフォーマルな心理的障壁が崩れる。なるほど「裃を脱ぐ」という精神的儀式はまだ生きているのだなと思った。

こういう「社員旅行」という儀式が、かつての日本企業にはどこにでもあった。

旅行に限らず、運動会とかサークル活動だとか、従業員同士がインフォーマルな関係を結んでいくための「儀式」があちこちに用意されていた。

日本の企業が単なる「労働をして賃金を得るための組織」ではなく「インフォーマルな人間関係を含んだ全人格的な共同体」として機能したのは、こうした儀式のためである。

だが、先ほどの温泉旅行の例でもわかるように、こうした儀式には女性構成員が想定されていない。

リクリエーションはまあいいとして、一緒に風呂に入るわけにはいかないし、浴衣姿でパンチラするのもいかがなものか。

同僚の女性たちも困ったようだ。浴衣を着ずにTシャツ・ジーンズ姿だった。

では、どうすればいいのか。もうさすがに温泉旅行の時代じゃないだろう。女性も男性も参加できて、全員が「武装解除」できるような儀式を、日本の企業文化は生むのだろうか。

答えはノーだ。

日本の企業文化の男性純血主義はおそろしく頑迷固陋な様子だ。それならいっそ「職場にインフォーマルな関係などいらない」という方向に状況は進んでいるように思える。

読者のみなさん、「女性の武装解除儀式」で成功している例があったら教えてください。

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