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2009-12-23 [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

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 いやね、イヤーな予感がしてたんです。六本木の駅を降りて「東京ミッドタウン」に足踏み入れた瞬間から。

 なんせもう、六本木ヒルズとタイマン張るみたいに屹立するピーカピカの再開発ビルざましょ。オッシャレーなカフェーやブティークにレストラーン、その間をよろばい歩く、ズタボロのライダーズジャケット&膝の破れたジーンズを着た、欠食顔のおっちゃん。それが小生。

 もう、どっからどう見ても場違い。勝ち組の城に迷い込んだ負け組プロレタリカット中年に、勝ち組ビジネスメン&ウイメンの視線が刺さる。あうう、痛いよう。

 ほなお前、何でそんなところにおんねん。

 よくぞ聞いてくだすった。

 アラン・トゥーサン見に来たんです。何?ありがとうさん?バッタがかあさん? まあフツー知りませんわなあ。

 トゥーサン氏は生まれも育ちも米国ニューオリンズのピアニスト、ブルースやジャズのみならず、隣接するカリブ海のラテン音楽やフランス植民地時代の音楽をも血肉と化した、その独特のピアノは高い評価を受け、60年代から数々の大物ミュージシャンとのセッションやプロデュースを何たらかんたら、来年70歳の生ける伝説でどうたらこうたら、ああ字数もったいない、要するにやね、そのテの音楽マニアにとってはやね、経絡秘孔を突かれるようなツボ直撃ミュージシャンなの!ひでぶあべし。

 その会場が「ビルボード・ライブ」という東京ミッドタウンの中のライブハウスなんだが、行ってみてわかった。こりゃライブハウスじゃなくて高級クラブだわ。

 立ち見やと翌日腰痛で寝込むし、席はちゃんと予約して、と中年の弱みを祈りに込めてインターネットでチケット買ったら、お代金1万1500円。

 いちまんいっせんごひゃくえん。た、たまらん。

 いや見ろ、これでも安い方だ。フランスの歌姫ジェーン・バーキン(本人はイギリス人だが)なぞ3万円だぞ、さささささんまんえん。がるる。

「ウガヤさま、お待ちしておりました」と席まで案内してくれる上品なフロア係の女性に「いやあ、どうもどうも」とヘコヘコ卑屈になっている自分が情けない。

 メニューを安いものから順番に探している自分が情けない。

 この赤ワイン1本11万円て何や。レミー・マルタン5万4000円て何やねん。いちいち周章狼狽している自分が情けない。

 フォカッチャって、コンビニじゃ350円だったんだけど、なんでここ1200円なの?

 おおお、隣席では勝ち組のミュージシャンかITベンチャー系のユルい服装のにーちゃんがギャルをはべらせスッポンスッポン白ワイン抜いているし。

 ここって中国?ロシア?これがあの、噂に聞いた「格差社会」ってやつ?

 むおお気を確かに持たねば。東京のコンサート代って、高すぎるぞ。

「ぴあ総研」によりますと、「ポピュラー/ロック」公演の「1人当たり単価」は5920円から6072円(2005年)に1年で値上がりしておる。

 ニューヨークに住んでたとき、マジソン・スクエア・ガーデンで「サイモン&ガーファンクル」の再結成コンサート見たけど、チケット代30ドルだったぞ。それでもニューヨーカーは「高すぎる」とブーブー言っておった。アラン・トゥーサンだって今のNYならまあ、高くて30ドルだね。

 いや、ウソじゃありません。NYでの3年間、ライブハウス・コンサートの類いには通い詰めたが「こんなに有名な人が、こんなに安くていいのか!?」と感涙することが何度あったことか。夏にはセントラル・パークでほとんど毎晩無料コンサートやってたし。

 あ、ジャパンのヤングが「夏フェス」好きなのは、結局あれが「一番お買い得だから」って説、ありますな。

 でも阿呆だね、音楽マニアって。アラン・トゥーサンのピアノと歌を1時間半堪能したら、もう感極まっちゃって、オシボリ振り回しながらブラボー叫んで、スタンディング・オベーションやっている自分。

 嗚呼耳に正月が来た。って、1万1500円のことなんかころっと忘れてるんだもん。

 んでまた騙される。


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