年金という「年寄り天国・若者地獄」 ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]
「年金」問題って、本当にややこしい。複雑怪奇でわかりづらい。
何しろバリエーションが多い。私のようなフリーランスのライターや、商店街の八百屋のおじさんのような「自営業者」には「国民年金」しかないけれど、サラリーマンはそれぞれの会社の「厚生年金」がプラスされる。学校の先生や公務員には「共済年金」がプラスされる。
と、その人の職業によって受け取る年金の有り様が千差万別なものだから、議論が余計にややこしくなる。
それに、年金といえば「おじいちゃん・おばあちゃんになった時に受け取るお金」と単純に思っているかもしれないが、障害を負ったときや、死んだ時にももらえる(本人には使い道がないけれど)。
ここまで複雑になると、新聞やテレビで年金関連のニュースを見ても、それが自分に関係があるのかないのかさえ分からない。
そこで、議論を思いきり単純化するために、ここでは「国民年金」=「日本国内に住所のある20歳以上60歳未満のすべての人が強制加入する年金」に話を絞る。
そして、その中でも、老人になったときにもらう「老齢基礎年金」に話を限ることにする。
これなら、20〜60歳の日本人であれば全員加入しているから、誰にでも関係のある問題になってくるはずだ。なので、以下「年金」といえば「国民年金の老齢基礎年金のこと」とご了解いただきたい。
年金とは何か。一言でいってしまうと、お年寄りになって退職しても、政府が国民からお金を集めて、その失った所得を補うように分配してくれる制度、と考えてもらえればいい。いわゆる「社会福祉制度」である。
さて、ここからが本題。この年金、支払った額ともらえる額の倍率が、生まれた年によってひどい格差を生じることが、確実になっているのだ。
それも、早く生まれた世代の方がトクをして、後から生まれた世代ほど損をするという「年寄り天国・若者地獄」になることを、政府の統計が認めているのである。
例えば、現在すでに年金をもらっている世代の場合はどうだろうか(年金は60歳から70歳の間で受け取り開始の年齢を選べる)。
1935年生まれ 保険料=230万円 給付額=1300万円(5.8倍)
1945年生まれ 保険料=390万円 給付額=1300万円(3.9倍)
「保険料」とは「年金のために支払った額の総計」であり、「給付額」とは「もらえる額の総計」と考えてもらえばいい(04年の厚生労働省の推計による。どちらも40年間満額で保険料を払ったと仮定。以下同じ)。払った額の4〜6倍弱が返ってくるなら、投資としてはそれほど悪い話ではない。
ところが、これが現役の働き盛り世代になると、がらりと様相が変わる。
1965年生まれ 保険料=830万円 給付額=1,600万円 (1.9倍)
1975年生まれ 保険料=1,000万円 給付額=1,800万円 (1.8倍)
なんと、いきなり2倍を切ってしまうのだ。
これより若い世代だと、85年・95年・05年生まれは、保険料・給付額とも少しずつ上がっていくが、結局倍率はみんな1.7倍である。この推計ですら「甘い」という批判が出ている。実際にいくら支払われるのかは、それぞれの世代が「お年寄り」になってみないとわからない。
なぜこんなことになったのか。簡単に言ってしまえば「少子高齢化が政府の予想以上のスピードで進んだため」である。
つまり年金をもらうお年寄りが急激に増え、その年金の財源になる保険料を払う若い世代が急激に減ってしまったから、こういう激しいアンバランスが生じたのである。同じ社会福祉制度の下でかくも大きな不公平が生じるというのは、どう考えてもおかしい。
リターンが2倍を切るのなら、ちょっと頭のいい人なら「自分で株にでも投資した方がいいや」と考えても不思議ではない。
実際に、いま国民年金の実質納付率は49.0%(06年度、社会保険庁による)という危険水域まで低下している。これは「国に老後のお金を預けるなんてアホらしい」という、一種のボイコットなのではないかと私は考えている。
(止め/1602字)
タグ:年金
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