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世界中でオールドメジャーメディアが臨死状態 ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

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 2007年から今年にかけて、長年「クオリティ・ペーパー(高級紙)」の名を誇ってきた欧米の名門新聞が次々と身売りや経営危機に陥っている。

 中でも世界を驚かせたのは、07年7月、メディア王ルーパート・マードック氏率いる「ニューズ・コーポレーション」社が「ダウ・ジョーンズ」社を総額56億ドルで買収した事件だ。

 その結果DJ社が発行しているアメリカの名門経済新聞「ウォールストリート・ジャーナル」がマードック氏の手中に落ちたのだ。

 同紙といえば世界の経済エリートから最も信頼されている新聞であり、世界経済への影響は極めて強い。

 そのWSJ紙が、これまで英国の「サン」「タイムズ」、アメリカの「ニューヨーク・ポスト」などの「タブロイド紙」(日本でいえばスポーツ新聞)ばかりを買収し「タブロイド紙の帝王」のように揶揄されてきたマードック氏の手に落ちたことの衝撃は大きかった。

 マードック氏はさっそく08年4月からWSJの紙面を刷新、経済専門だった同紙を、国際、文化、スポーツニュースで多角化した。

 これは米国の知識層に絶大な信頼がある高級新聞「ニューヨーク・タイムズ」への挑戦だと言われている。

 現在のNYT紙は、広告収入をインターネットに奪われ、赤字続きで経営はヨロヨロ、金融情報会社ブルームバーグ社による買収説が囁かれる有り様だからだ(『ニューズウィーク』08年4月30日/5月7日号)。

 フランスではすでに高級紙の多くが他業種に買収されている。

 保守系高級紙「フィガロ」は、04年にミラージュ戦闘機を製造する兵器メーカー「ダッソー」がオーナーになった。

 WSJのフランス版ともいえる高級経済紙「レゼコー」は07年に高級ブランド大手企業「モエヘネシー・ルイビトン」に買収されている。これらの大企業はどれもサルコジ政権に近い。これでは自由な政府批判など無理だ。

 フランス語圏では知識層の厚い信頼を誇る「ルモンド」紙ですら、販売部数減と広告減で減収のダブルパンチを食らい、経営は危険な状態にある。

 すでに雑誌・書籍部門は身売りされた。さらに記者の4分の1以上にあたる89人をリストラする経営改革案を提示したところ、編集現場が猛反発。今年4月には、1944年の創刊以来初めて、1週間に2回もストで休刊するという前代未聞の事態に陥った。

 こうした苦境に名門紙が陥った理由は、欧米ともよく似ている。

 インターネット媒体と、広告収入だけで発行される無料紙が急激に勢いを増し、新聞経営の生命線である販売収入と広告収入を失ったのだ。

 これまで、フランスなら記者が株式を持ち合ったり、アメリカなら富裕な資産家(例えばDJ社はバンクロフト家、NYT紙はサルツバーガー家)が株式を非公開のまま所有、外部からの買収を防いできた。

 こうした「新聞社株の非公開」は「紙面の言論の自由」と「経営と編集の分離」を守る防波堤の役割も果たしてきた。それが今、音を立てて崩れ始めているのだ。

 こうした「経営の論理」が新聞編集の現場に持ち込まれると、どんなことが起きるのか。

 自らも記者である下山進は、1995年にアメリカ各地の新聞経営を取材し、予言的な本を書いている(『アメリカ・ジャーナリズム』丸善ライブラリー)。

 それは簡単に言ってしまえば「不採算部門の切り捨て」だ。

 真っ先に血祭りに挙げられたのが「調査報道」(investigative report)だった。下山はその一例として米インディアナポリス市の地方紙「インディアナポリス・スター」紙のケースを書いている。同紙は、2人の記者を1年間潜行取材させて「医療界不正キャンペーン」を1ヶ月連載。1991年のピューリッツアー賞に輝いた。

 ところが、その2ヶ月後に調査報道取材班は上層部に解散させられてしまう。同紙がマードック氏のニューズ社に似たメディア企業に買収され、株式を上場してから、全てが変わってしまったという。

「記者を長時間投入してもたいした増益にならない調査報道などやめてしまえ」というコスト計算らしい。

 こうした調査報道は、議員、裁判官、警察・検察、大企業といった「権力」を監視する、ジャーナリズムにとっての生命線なのだが、損益でいえば「無駄」と判断されてしまう。これは「報道の死亡宣告」に等しい。

 冒頭のマードック氏のように報道の内容に介入したがる経営者が上に来ると、現場の記者としてはさらに厄介なことになる。「あれを書け」「これは書くな」という「社内検閲」が必ず始まるからだ。

 DJ社の買収の際、バンクロフト家に対してマードック氏は「DJ社が長年培ってきた社内規範には介入しないし、介入を示唆することもしない」と約束したと報道されている。

 が、英国「タイムズ」紙を買収した時には「人事に介入しない」という約束を「え?そんな話、全部マジに思ってたのか?」とあっさり反古にしたという逸話を他ならぬWSJ紙(07年6月5日付)が報じている。

 また、ロンドン市立大学の調査によると、2003年のイラク戦争開戦時、マードック傘下の新聞175紙が軍事行動を支持した。

 調査したロイ・グリーンズレード教授は「マードック氏の意向を反映したもの」と指摘している(07年8月12日付毎日新聞)。

 こうなると「経営と編集の分離」もへったくれもない。「経営者によるマスメディアの私物化」だ。かくして、政府や大企業といった権力を監視するジャーナリズムは世界的に絶滅寸前の状態にある。

 おっと、マードック氏はソフトバンクの孫正義氏と組んで1996年にテレビ朝日の買収を仕掛けた「前科」があることをお忘れなく。日本のメディアだって安泰じゃないのですよ。


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