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デイ・トレーダーなんて簡単だ ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]


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 ここだけの話だが、株の売買でもうけるのなんて、簡単だ。

 株を買い、その買い値より高い値段で売ればいいのだ。その差額があなたの利益になる。

 もし買ってその日のうちに売ったなら、あなたは「デイ・トレーダー」と呼ばれる(昔は『日計り商い』と呼んだ)。

 いや、差益さえ出れば、一日で売ってもいいし、何年か寝かしてもいい。

 空港の免税品点で安く買ったコスメやフレグランスをネットオークションで売る(やったこと、あるでしょ?)のと同じ。

 オークションも株式市場も「売る人と買う人の出会いの場」=「マーケット」という点では同じだから、似るのは当然なのだが。

 難しいのは、あなたが買った株が、これから値上がりするのか、値下がりするのか、誰にもわからないことだ。

 買い値より下がれば、あなたは損をする。「いつ売ればいいのか」も、わからない。昨日までバンバンに利益が出ていたのに「明日まで待てば、もっと値上がり」と欲張ったせいで、次の日には大暴落、ということもよくある。

 この「買った値段より値下がりすること」を「元本割れ」という。ここが銀行などへの「預貯金」と違う点だ。つまり損するリスクはあなたが引き受ける。「自己責任」だ。

 もちろん、あなたにそこそこの経済知識があれば、経済の動向や、企業の財務を分析して「この会社なら成長して株価値上がり間違いなし」と「合理的な根拠」に基づいて株を買えば、値上がり有望株を見つけることは可能だ。

 例えば「液晶ケータイが爆発的に普及する」と読んで、安値で液晶部品の会社の株を買っておいた人は、今ごろ大もうけしているだろう。

 これから団塊の世代が高齢化するから、老人用オムツ会社の株を買っておくなんてのもいい(かも)。

 だが、株のケッタイなところは、ある企業の成績が絶好調でも、全然関係ない、予測不可能なリスクが発生して値下がりすることだ。

 例えば悪徳企業「うがやまんじゅう」の産地偽装がバレて、うがや株が暴落したとする。

 すると正直経営の「ヌメロまんじゅう」株まで「まんじゅう関連」というだけの理由で投げ売り状態になり、暴落したりする。ヌメロ株が売られる合理的な理由はない。単なるとばっちり。「株式市場は合理性ではなく集団心理で動く」と言われる由縁だ。

 ちなみにイギリスの経済学の重鎮ケインズは「株式市場は美人コンテストみたいなものだ」と喝破している。

 もっと不可解なことも起きる。あなたが何年も大切に成長を見守ってきた企業の株主だとする。株価も順調に上昇、含み益もばっちり。

 ところが、あなたの知らないどこかのヘボ投資家もその株を大量に持っていたとしよう。そのヘボ投資家が他のどうしようもない会社に投資して大損。

 すると、損を埋めようと、先の健全会社の株を大量に売って利益を確保しようとする。当然、健全なはずのその企業株は暴落。経営はまったく健全、何の落ち度もないのに、顔も知らないどこかの阿保がヘマをしたために、あなたも地獄に引きずり込まれる。しかもなぜ暴落したのかさえわからない。そんなことが起きる。

「そんなややこしてく危ない世界、足を踏み入れたくないわ」。そう思うあなた。ごもっともです。

 じゃ、銀行に貯金しますか?いま公定歩合は0.75%(08年8月)とチョー低金利のままピクリとも動きません。100万円預けて年7500円の利息です。ちょっと豪勢な晩メシ代レベルですね。

 80年代のバブル時代には、利率6%の5年もの複利定期預金があって、100万円預ければ寝てても5年後には30万円以上もうかった、なんて話は何だったのでしょう。

 一方、企業は年金(いわゆる厚生年金)への出資が重荷になってきたため「401K」という「株式・債券パッケージ(ファンドという)のアラカルト年金」に飛びついた。

 2001年に導入されたこの401K、いま加入者は250万人いるという。が、401Kも「元本割れアリ」の自己責任商品なのだ。案の定、その後の株式市場の停滞と低金利で401Kはひどい状態に陥っている(『讀売ウィークリー』08年3月23日号)。

 一方の公的年金がメルトダウン寸前であることは以前に本欄でも書いた。これが老人福祉の行く末とは、残酷で無責任な話だ。

 つまり、私たちにはもう選択肢がほとんどないのだ。

「デイ・トレーダー」を「ゲーム感覚の不労所得収入者」などとステレオタイプな偏見で見てはいけない。欧米では「個人投資家」などありふれた存在だ。

 年金も銀行も頼りにできないのなら、市民が自己防衛することは至極当然である。少なくとも、ネット株取引のような身近な場所で学習した、ファイナンス・リテラシーが高い市民が増えるのはいいことなのだ。企業も株主には弱い。「IR」という名前で情報開示を積極的にするようになったのがその証拠である。

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