映画「LOOK」を見て偽善者どもを撃て! [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
カネの切れ目が縁の切れ目とは誠によく申したもので、新聞社を辞めたとたん、月百枚くらい来ていた無料のサンプルCDも、映画の試写会の案内も、ピタリと来なくなりました。
レコード会社も映画会社も、分かりやすすぎだぞ。友だちみたいなフリして、いけず。パブリシティがほしかっただけなのね。
試写会の案内ハガキなぞ、AERAの編集部の真ん中に「ご自由にお取りください」と書いたハコがあってザクザク取り放題だった。
それが今じゃ、たまにハガキが郵便受に入って喜んでいると「エルビス対ミイラ男」とか「芸者vs忍者」とか、ケッタイな映画ばっかり。
がるる。おちょくっとんのか。これ送ってくるヤツ、おれのことものすごく分かってるか、完璧にカン違いしとるか、一体どっちやねん。
でもたまには上玉も来る。ピンク色のカードに「あなたも、見られている」「全米3000万台の監視カメラが捉えた決定的瞬間!人々は安全と引き替えにプライバシーを捨てた」という思わせブリブリのキャッチコピー。
監視カメラのレンズをかたどった「LOOK」(映画のタイトルね)のOの字には、何かしらんが裸同然のTバックねーちゃん二人がクネクネしとる。
おお充血する海綿体。
何やて? 映画史上初めて、全編監視カメラによる映像を使用? 通常の映画では決して描かれることのない衝撃のプライバシー映像? 事件、事故の決定的瞬間?
つまりナニかね、監視カメラが記録したのぞき見映像を構成して映画をつくっちゃったってことかね。うっひ〜もう辛抱たまらん。これが行かずにおられようか(いや、行く)。
って、チャリンコをぶっ飛ばして試写会場に突進、映画が始まってしばらくして気が付いた。
しまった。これはワナだ。
くそっ監督アダム・リフキン、サノバビッチのマザーファッカーめ。観客を全員ワナにかけやがった。
あのですね、バラしちゃいますけどね、この映画、全員俳優が演じるフィクション劇を監視カメラ風画角・画質で撮影した作品なのよ。
警官を射殺しATMでオバチャンを誘拐する凶悪犯。中年教師をゲーム感覚で誘惑するスケベ女子高生。エレベーターにて大音量でオナラするキャリアウーマン。モールで幼女を誘拐するロリコンのおっさん。内緒でゲイの弁護士カップル。デパートの倉庫で女子従業員とヤリまくるマネージャー。
これ全部俳優が演じているお芝居なんです。
でも、監視カメラの画像になると、たちまちどっかのリアリティ番組(なんたら県警交通機動隊密着24時間!!とかね)で見た映像とそっくりになる。
フィクションがリアリティに限りなく近づくというえげつないトリック。デジャブー。高木ブー。
つまり、ワタクシも含め、この映画の宣伝文句に釣られて試写会に行ったエーガヒョーロンカとかシンブンキシャさんとかライターさんたちは、リフキン監督のしかけた巧妙なワナにはまっている。
つまり他人のプライバシーを堂々と鑑賞できると思って足を運んでいるんですな。
そういう人たちに限って、この試写を見たあと、自分のことは棚に上げて、週刊金曜日とか朝日新聞とかのアカ媒体、おっと間違えた良識派メディアにすました顔で説教を書くのです。
「この映画は、監視カメラによる監視社会のプラバシー侵害を告発している」
「日本でも昨今監視カメラの行き過ぎが問題となっている」
とかなんたらかんたら。くだらん。しょせん斉藤貴男の受け売りのくせにね(笑)。
わははは。リフキン監督は、そんな連中をあざ笑っているのに気が付きませんか?
ほれ、お前らだって最初はソソられたじゃねえか。
他人のプライバシーがノゾキたかったんだろ?
自分のプライバシーはああだこうだ守ろうとするくせに、他人のプライバシーは覗きたいんでしょ?
そんなお前らは、偽善者だ。そう言ってる。
だいたいタイトルからして「LOOK」=「ほら、見てごらん」て挑発的なの、気付いている?
さあみなさん、これから新聞・雑誌にご注目を。
この映画の評論で「監視カメラのプライバシー侵害による社会問題を告発云々」なんて、陳腐でくだらねえ説教たれてるヤツを見つけたら、名前をメモしておいて。
そいつ偽善者だから。
(追記:こんなことを書いて公表したら、この映画について誰もピタっと取り上げなくなった=笑。みんなそういう凡庸なことしか思い浮かばないんだね)
2008-08-01 02:52
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