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70年代フォーク専門カラオケに潜入取材だ! [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

081206フォーク専門カラオケに潜入

 格差社会ニッポン。日本の赤化革命を目指すプロレタリアのみなさまの愛読誌「週刊K曜日」にさえ格差は存在する。以下は極秘で入手した、正規雇用者•編集部員Kと、身体以外に生産手段を持たない無産階級フリーライターUの間の電話盗聴記録である。

K「年末号のコラム、とっとと出してください。私の正月休みが来んでしょうが」

U「あーうー、じゃあここは週刊K曜日らしく『2008年ベストスターリン主義者大賞』なんてどうでしょう」

K「またタワケ言って、クラミジア菌が脳に回ったんじゃないですか」

U「連載始めるとき『K村編集長の髪型批判以外なら、言論の自由は保証する』って約束したじゃないですか」

K「あのころはまだ編集長にも毛があったんです。ウダウダ言ってると訴訟がまた増えますよ」

 というわけで哀れな無産者Uが命じられた任務は、対立セクトへの潜入•偵察、すなわち「エス」(スパイのこと)であった。

 監視対象は東京•上野にある「フォーク専門カラオケ店」、そこに客を装って潜入し、決起盛んな(誤字)団塊フォークゲリラたちを監視報告せよとの命令が党中央から下ったのである(なお以上の物語はフィクションであり、実在する週刊誌および編集者、ライター、訴訟とは一切関係がありません)。

 てまあ字数稼ぎのヨタ話は置といてだね、そんなもんホンマに実在するんかと思ったら、あるんだよねフォーク専門カラオケ店。

 師走、泥酔リーマン&ゲロでぐちゃぐちゃの金曜日夜9時の上野。

 嗚呼そこはイモを洗うようなオヤジの海であった。

 あったあった「ビッグエコー」の地下に「フォーク居酒屋」って看板が。

 ぐわわ「HIT STUDIO 70’s 旅のつづき…」ってこの店名、最後のテンテンは何だ。団塊の諸先輩方、まだ旅してんの!?はよ家帰らんと徘徊老人と間違われてケーサツに保護されまっせ。

 うくくドア開けると店ん中、ムンムン満員。みなさん老眼鏡使用、毛がないか、あっても白髪またはビゲンへアカラー使用って風体が渋い。うう加齢臭とポマード臭で息苦しいよう。

 ちょっと待て。ステージあるやん。ドラム、ベースもおる。ギター、キーボードも。これカラオケちゃうやん。バックバンドつきライブハウスやんか。

 うわわ客、どんどんステージに押し寄せ、ギターを取り歌うわ歌うわ。出た!吉田拓郎だ!かぐや姫だ!オフコースだ!ヤァ!ヤァ!ヤァ!

「すみません、歌詞が細かい字なんで間違えました」と謝る客に「大丈夫です!うちのお客さんはたいてい目が弱ってます!」と司会の店員がアブない客イジリ。

 客席から「総務カチョー」と自虐的なヤジが飛べば、ステージのおっちゃんは「うるせえ!総務はまだやってねえ!」とまた泣かせる返し。

 ギャーホワヒョーと雄叫び手拍子足拍子、山賊の宴会かねここは。

 いやねでもね正直感心した。みんなチョーうまいんだわ、これが。歌詞と、自分のキーに転調したコード進行をパソコンでプリントアウトした「マイソングファイル」をちゃんと持参してる!

 銀縁眼鏡にオールバックがしぶいエロカワさんが歌うはオリジナル曲「新宿レイニーブルース」だ。

 大学教授と名誉教授みたいな高齢デュオがギター弾きながら絶妙なハーモニーで歌うは「22歳の別れ」。この人たち、普段一体何してんの?

 で、スパイ活動はっていうと。

「じゃあ、そこの初めてのお客さん!」
「歌手的には誰が好み?」

と指差されたわし、衆人環視の中

「あーうー、昔の井上陽水が好きです」

なんて口走ったのがまずかった。たちまちステージに引っ張り上げられヤケクソで「帰れない二人」を歌ったらバカウケしちまった。

 大歓声と拍手。みなさん「うまいね〜」「渋いね〜」と握手してくださる。ううう何ていい人たちなんだ。何だか嬉しいし楽しいぞ。

 あ、これ、おれも「あっち側」へ行っちゃったってこと?

 もう「お迎え」?

 オーマイガーノオノオノオ。

(1580字)



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