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オバマ大統領誕生は人種差別の克服なのか? ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

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バラク•フセイン•オバマ。留学生だったイスラム教徒のケニア人、バラク•オバマ•シニアを父、白人のアメリカ人文化人類学者アン•ダナムを母に、ハワイで生まれる。母がインドネシア人と再婚したためジャカルタで10歳まで過ごす。母方の白人家庭で育ち、コロンビア大学、ハーバード大学ロースクールという、白人が圧倒的多数の東部アイビーリーグを卒業した優等生。人種的には「アフリカ系」だが、奴隷を祖先に持たない。宗教はプロテスタント。

 この第44代アメリカ大統領の生育歴をたどるだけでも、もはや「アメリカ人」は日本人が想像するような「黒人vs白人」などという単純な図式では理解できないことがわかる。

 私の周囲でも、コロンビア大学院や記者の仲間には「インドネシア人とコロンビア人のハーフ」「ハンガリー系ユダヤ人とアイルランド系のハーフ」「イラク系ユダヤ人」と、想像を超えるエスニック•バックグラウンドの友人がごろごろいる。

 私がジョークで「あなた一体、何人?」と聞くと、彼らはいたずらっぽく笑って「『アメリカ人』としか言いようがないな」と答える。

 ところが日本のマスメディアのオバマ報道は、実に古くさい。「キング牧師の夢がかなった」とか、まるで40年前の公民権運動時代で時計が止まったようなステレオタイプな図式のままだ。

 自らもアフリカ系のコラムニスト、エリス•コースは「バラク•オバマの偉業は、ある意味それほど大したことではない」と言い切っている。「共和党の現職大統領がのけ者扱いされ、また現政権が主導してきたアメリカの金融が崩壊した年、つまり民主党候補の勝利が当然の年に勝ったまでだ」(ニューズウィーク誌08年11月19日号)。

 その通りだ。コリン•パウエル、コンドリーザ•ライスと、日本の報道では「マイノリティに冷たい」はずの共和党(ブッシュ)政権でさえ、アメリカ外交の最高責任者(国務長官)を務めたのは揃ってアフリカ系だったということをお忘れなく。キング師は天国で「私の夢はとっくの昔に実現しとる」と言っているだろう。

 キング師時代の公民権運動から生まれた「Affirmative Action」(AA)という制度をご存知だろうか。「少数派優遇政策」などと訳される。アフリカ系、ラテン系、女性など社会的に不利な立場に置かれているマイノリティを積極的に優遇し、多数派の白人と同じスタートラインに立たせるという制度だ。大学入試や企業の採用に人種、性別、宗教、出身国などの「枠」を設け、地域の人口と同じ構成比になることを求める。有り体に言えば「ゲタをはかせる」のだ。

 この言葉が初めて使われたのは1965年、ジョンソン大統領が発した大統領令である(念のため。アメリカ以外の国にもAAはある。日本の『障害者の雇用の促進等に関する法律』が定める義務雇用率はその一種。女子特別枠を設けている大学や企業も日本にちゃんとある)。

 この制度が生まれた1960年代以降、アフリカ系の大学進学率が上がったことは間違いない。1970年に6.7%に過ぎなかったアフリカ系の大学進学率は20年で倍になった。1990年。医師、弁護士、教師、エンジニア、官僚など様々な専門職にアフリカ系が進出するドアを開いた。

 働き盛りの主要所得者(35-44歳)を持つ既婚家庭に限ると、平均所得は同じ20年の間に年2万7000ドルから4万3000ドルへと増加。「アフリカ系中産階級」が急増、白人家庭との格差は縮まっている。カルフォルニア州立大学のように「AAの役割は終わった」と廃止する動きさえ出ているほどだ

(それでも『AAは逆差別だ』『いや、まだ差別は解消していない』と全米で訴訟や論争が続いていることは強調しておく)。

 その結果、アフリカ系の中でも中産•富裕層と貧困層が分離している。白人、ラテン系内でもそうだ。私が大統領選のため全米を取材した1996年(クリントン政権2期目)の時点ですら、これは明白だった。こうして見ていくと、1961年生まれのオバマを理解するのに「アフリカ系→奴隷の子孫→差別の被害者→貧困」といったステレオタイプがいかにピント外れか、おわかりだろう。

 断言するが、人種問題に拘泥していると、いまアメリカ社会の本当の対立軸になっているものを見失う。それはレーガン大統領以来、共和党•民主党政権問わず続いた新自由主義経済(政府の経済への介入を極端に嫌う自由市場原理主義)が悪化させた、経済格差である。それは日本の「格差社会」と、原因も結果もまったく同じだ。そして、状況はサブプライムローン危機でいっそう悪化している。オバマはそんな最悪の時にアメリカ大統領になるのだ。



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