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テレビアバターの膨張 ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

ジェームズ・キャメロン監督の映画が大ヒットしたおかげで「アバター」という言葉が広まって話がラクになった。

これまではインターネットのヘビィユーザーぐらいしかこの言葉を知らなかったから。

チャットやオンラインゲームで自分の「代理」としてネット空間で行動するキャラクターのことである。

実はこのAvatarという言葉、元々はサンスクリット語だ。

「アヴァターラ」と発音する。

日本語にすれば「化身」「権現」。ヒンドゥー教の救済神ビシュヌが天からこの世に降り下り、姿を変えた魚やイノシシ、亀などのことを指す。

教典によって十か二十五のアヴァターラがリストアップされている。実は非常に宗教的な言葉なのだ。

つまり「アバター」という言葉には元々「抽象的で形のない崇高な存在が具体的な姿を取って別世界で代理として動く」というニュンスがある。

キリスト教のイエスも「人間の姿で神の言葉を代行する」という意味ではアバターだ。

日本には古来「動植物、自然物が霊性を宿す」というアニミズム信仰(=原始神道)があるので、アバターという言葉を知らなくても「神様のお使い」「神様の化身」といった言葉でアバターの概念を理解している。

「お稲荷さん」信仰のキツネは分かりやすい例だ。

だから、現代の日本人が日々の生活の中で知らず知らずのうちにアバター的な存在を設定していたとしても、それは不自然なことではない。

現にメディア空間ではアバターたちが活躍している。

例えばテレビのワイドショーやバラエティ番組を見てほしい。

「コメンテーター」という、何をするのが職業なのかよくわからない人たちがぞろぞろ登場する。

なぜよくわからないのかというと、コメンテーターという職業はテレビというメディア空間にしか存在せず、現実世界にはいないからだ。

その役割は文字通り番組中で「コメントする」(言葉を述べる)ことが仕事なのだが、その発言が「誰も思いつかなかった斬新な発想や情報」だとは誰も期待しない。

むしろ「誰もが思いつく範囲内」つまり「社会の最大多数が合意可能な」内容が視聴者に好まれる。

つまりコメンテーターは「自分が考えていることを自分に替わってはメディア空間で発言してくれるアバター」だと視聴者は無意識に了解しているのではないか。

そう思ってバラエティ番組をよく見てみると、司会者の後ろのひな壇に、老若男女ちりばめた「ゲスト」たちが時には十人以上並んでいる。

なぜこんなにも多数のゲストが必要なのかと言うと、彼らは視聴者の全年齢・全性別グループを代表するアバターだからだ。

ボケた発言を繰り返して知性が低いかのように振る舞うギャルタレントも、頑迷固陋な保守的意見を振りかざすオッサンタレントも、視聴者のアバターなのだから、視聴者の価値観(発言だけでなく容姿やファッションも含む)を代行する限り、非難されない。

もちろん「視聴者を教え導く権威」をマスメディアに求める視聴者(保守層やリテラシーの高い層が多い)は「視聴者とフラットリー・イコールなアバター」たちにいら立ちを感じる。

しかし、全部の年齢層・知識・性別を代表するアバターが揃わないと、対応した広い層の視聴者を集めることができないのだ。

こうしたテレビアバターたちが別のメディア空間に送り込まれることも多い。

文字通りテレビ番組で視聴者の代理として意見を述べることで視聴者に知られるようになった橋下徹弁護士が、大阪府知事として「政治」という我々の日常空間とは違うある種の仮想現実に送り込まれたことは象徴的な出来事だった。

橋下氏が私たち大衆のアバターである事実はずっと変化がない。

ただその送り込まれるメディア空間が「テレビ」から「政治」に変わっただけである。

どちらもコメディアンだった青島幸男氏が東京都知事に、横山ノック氏が大阪府知事になった1995年あたりで、この「政治家のアバター化」は明確になった。

ちなみに、二人がアバターの座を追われたのは、青島氏は都官僚への隷属、横山氏はセクハラという「アバター逸脱行為」をしたからである。

これは「現実世界における人間の行動規範」が「メディア空間の行動規範」に似てくるという意味で「現実のメディア空間化」と呼べる。

現実がどんどん仮想現実の価値観で動くという、ねじれた現象である。「現実のテレビ化」と言ってもいい。

さてこの現実世界に、ゲームやチャットであふれかえるインターネットアバターの行動規範がなだれ込んでくるのはもはや避けられない。

どんな世界がそこには待っているのだろう。

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