なんでのりピーなんかにモラルの規範なんて求めるの? [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

いつの間にか、秋。
道端に虚しき声や蝉骸。
暮れなずむ空に茜の鰯雲。
おお何と儚くも人生は過ぎ去ってゆくものであることよなあ。
などと詠嘆に浸りつつ思索散策、路傍の虫の音に耳を澄ませておりましたところ
「タカソーノリコヨーギシャ、タカソーノリコヨーギシャ」
ってスズムシの声。何やねんそれ。わわわ。こっちじゃ
「ジショープロサーファー、ジショープロサーファー」
って虫が鳴いとる。
ぎゃっ。八月ずっとネットとテレビで芸能ニュースばっかり見てたせいで、幻聴が聞こえる。ごめんなさいお母さんぼくの魂はすっかり汚れてしまいました。
んで、何だっけ?シブヤでポリさんに職質かけられて薬物で現行犯逮捕されたって、押尾学だっけ?ちがう?トンズラしたヨメはんは和田アキ子だっけ?え?矢田亜希子?誰それ?だんだん混乱してきたぞ。
まあどうでもいいや。
でも読者のみなさんだってアレでしょ、私が愛してやまかなった川村カオリが乳がんとの闘病の末38歳で早逝してしまったことなんぞ、すっかり忘れてるでしょ。「芸能人名誉毀損判決高額化」の先頭を切って芸能マスコミから少し恨まれ、なが〜く恨まれた大女優・大原麗子が亡くなったなんて忘れてるでしょ。
いやあ、1955年以来続いた自民党独裁をひっくり返した大政変くらいしかのりピー報道に勝てるニュースはなかったんだから、さすがだね、らりピーは。じゃなかった、のりピーは。
でもひとつわからんことがある。なんでみなさん歌手や俳優の私生活に「モラルのお手本」なんて求めるの?
警察とか新聞なんぞマジメに「芸能界も薬物の一掃に真剣に取り組むべきだ。今回のような人気タレントの事件が続けば、安易に薬物に手を出す風潮に拍車をかけかねない」(讀売)なんてぬかしとる。わはは。ほとんど寝言以下ですな。
言うのも馬鹿馬鹿しいけど、ミュージシャンや俳優、画家や小説家とか表現者(古風に言うと芸術家だな)の私生活なんて、どうでもよろしい。
すぐれた作品を生んでいるのなら、本人は社会落後者でも犯罪者でもええのとちゃいますか。作品だけで評価すればいい。
もとより芸術家ってのはそういう「法律」とか「道徳」とか、社会のマジョリティが合意した価値観とは別の価値世界を表現するのが仕事じゃないですか。
詩人のウイリアムズ・バロウズなんかへろへろのジャンキーだったし、ウイリアム・テルの真似して奥さんの頭に林檎乗せてピストルぶっ放して殺しちゃった、とかムチャクチャなじーさんですが、彼の文学作品の価値は微動だにせんね。
アメリカでミュージシャンや俳優がドラッグやろうが拳銃ぶっ放そうが、まあスーパーのレジ横で売ってるタブロイド誌やケーブルTVのワイドショーは大騒ぎでしょうが、それでDVDやCDを回収するだとか、事務所やレコード会社クビになるなんてありえない。
ドラッグのリハビリやって復帰した人、多いっすよ。その方が青少年が立ち直るお手本になるしね。
そのへん、アメリカ人の友だちに聞いたら「モラルのお手本を社会に示すのは聖職者や宗教家の仕事であって、芸術家の仕事じゃない」と即答された。なるほど。
じゃあのりピーもそうかって言うと、苦しいね。だってのりピーは歌手としても俳優としても、創造性も独創性もないから。芸術家だなんてとても言えない。作品だけでは勝負できないんです。
(あ『いただきマンモス』はなかなかクリエイティブなギャグやった)。
じゃあ彼女は何だったのかというと、日本独自の「メディア・キャラクター」としか言いようのない存在ですな。
業界では昔「タレント」、最近ではいちびって「アーティスト」などと呼びます。
つまり「歌または映画またはドラマで人気者になる→企業のテレビCMや商品のキャラクターになる→また人気アップする→最初に戻る」と「歌ドラマ映画→商品宣伝」というマスメディア上のサイクルをぐるぐる循環する職業。
悲しいかな、このメディア・キャラクターさんたち、表現者のフリはしてるが、拠って立つ「自分の作品」ってのがない。ただマスメディア上での「大衆の認識」という、得体の知れない、実体のないモンだけがその商品価値なんです(これは精神的に空疎でツラいやろなあ)。
あ、そうか。わかった! 誰ものりピーを歌手や俳優として評価なんかしてなかったんですね!
メディア・キャラクターだからこそ、私生活で法律違反すると「大衆の認識」が総崩れになる。もともと商品宣伝にがんがん使われていただけに「パッケージには品行方正・清純なアラフォーママだと書いてあったじゃないか」って「騙された感」で消費者は怒る。商品購買だから、契約違反ですわな。
そうすると、日本人の消費者はけっこう賢くのりピーを見抜いてのかもしれんなあ。(敬称略)
タグ:酒井法子 覚せい剤 逮捕
コメント 0