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CD再販制度はもう有名無実になってるんですけど [週刊金曜日別冊「日本の論点」]

 CD・レコード専門メガストアの象徴だった米国タワーレコードが米連邦破産法十一条の適用を申請、経営破綻したのは06年8月20日である。

 この事件を、日本の新聞は、まるで判で押したように 音楽のインターネット販売を「主犯」として報道した。アップル社の「iTunes Store」を筆頭とする音楽のデータ型インターネット販売が、タワーのようなCDの店舗販売の息の根を止めたとする「ネット配信単独犯行説」である。

 これは「誤報」と呼んで差し支えない。05年の段階でも依然、アメリカの消費者が音楽を購入する最大の窓口は、タワーのような「レコード・CD店」(全米レコード協会調べ。金額ベースで39.4%)なのである。

 それに次ぐのが「ウォルマート」「ベスト・バイ」といった量販店(32%)。第3位が、アマゾンのようなパッケージCDのインターネット通販(8.2%)。音楽データのダウンロード販売はたった6%にすぎない。

 これで「ネット配信がタワーを倒産させた」と主張するのは「子猫がトラを食い殺した」と言うのと同じだ。

 実を言うと、タワーの経営はヨロヨロだった。04年2月には一度目の破産法を申請。つまり、すでに一度潰れているのである。

 アマゾンを筆頭とするCDのインターネット販売にシェアを食われことがひとつ。そして、アジア諸国やラテンアメリカ諸国への出店拡大路線が失敗に終わったことも大きかった。

 追い討ちをかけたのが、量販店の追い上げである。「ウォルマート」は衣料品や台所用品なども扱うモール店で、毎週1億3800万人が買い物をするという巨大販売網を持つ。日本で例えるならイトーヨーカドーやイオンといったスーパーに似ている。「ベスト・バイ」は元々は家電量販店で、ビックカメラやコジマに似ている。

 こうしたチェーン店の特徴は、CDを12ドルで仕入れ、10ドルで売る「赤字商法」である。赤字分は他の商品を売って埋める仕組みだ。CDは客を呼び込む「おとり」にすぎない。

 例えていうなら、タワーはウォルマートやベスト・バイにショットガンをぶち込まれ、アマゾンにナイフで刺されて心拍停止状態になり、病院に担ぎ込まれたところで、インターネット配信に生命維持装置を外された。そんなところだろう。

 幸運なことに、日本のタワーレコードは02年10月に日興プリンシパル・インベストメンツに買収されて商標権も移り、アメリカのタワーとは別の会社になっていた。現在の筆頭株主はNTTドコモである。

 さらに幸運なことに、タワーレコードを含め日本のすべてのレコード店は、イトーヨーカドーやビックカメラやといった量販店と価格競争をする必要がない。

 日本には「再販売価格維持制度」(再販制度)という独占禁止法上の例外規定があって、生産者(レコード会社)が決めたCDの価格は、小売り業者がいくらがんばっても値引きできないことになっているからだ。だから、国内盤CDは、タワーで買おうがイトーヨーカドーで買おうが、全国どこでも同じ値段である。これは本来は「価格カルテル」と呼ばれる違法行為なのだが、「文化保護」等々の理由で例外的に認められている。

 ついでに言っておくと、iTunes Storeのようなダウンロード販売がCDの店舗販売を脅かすことも、近い将来にはありえない。確かに、音楽の販売量に占める「インタラクティブ配信」の金額は、全体の1割前後にまで伸びているのだが、その9割は「着メロ」「着うた」という携帯電話用であり、iTS型は全体の1%前後にすぎない(日本レコード協会)。

 さて、気になるのは、CDの再販制度適用が今後一体どうなるのか、という点だ。公正取引委員会の調査でも、日本のCDは欧米4カ国の平均より約32%も高いことが明らかになっていて、日本盤CDの高価格は消費者にすごぶる評判が悪いからだ。

 実は再販制度存続の議論は意外に歴史が古い。95年3月に「規制緩和推進計画」で「98年中に全指定商品について取消の手続きを実施・施行。著作物は98年末までに範囲を限定・明確にする」とまで閣議決定されている。

 ここらへんから、同じ再販対象商品である新聞・出版、レコード業界の「再販絶対死守運動」が始まる。すったもんだのロビー活動と喧々囂々の議論の末、01年3月に公正取引委員会は「現段階において著作物再販制度を廃止することはせず、当面同制度を存置することが相当である」という「最終結論」を出し、いったんは「撤退」する。

 しかし、その理由は「廃止の理由について国民的合意が形成されていないから」であり「合意が形成されれば廃止する」という内容だった。今年5月の衆議院・経済産業委員会でも、竹島公取委員長は「再販制度は競争政策上望ましくなく、廃止すべきものであるという考え方は一貫してとっている」と「戦闘態勢」を崩していない。

 いまの「主戦場」は、04年から毎年1回公正取引委員会が主催している「音楽用CD等の流通に関する懇談会」だ。レコード業界、小売り業界、消費者団体、学者など十数人が参加している。公開されている議事録を読む限り、レコード業界幹部が再販制度の必要性について縷々説明、各界からの批判に防戦これ努めるといった感が拭えない。

 ところが今年2月、もうひとつ「CD再販の敵」が飛び込んできた。小泉政権が立ち上げた「知的財産戦略本部」である。その「コンテンツ専門調査会」報告書には、何と「音楽用CDについては再販価格維持制度の対象から除外することを検討する」と明言されていたのだ。レコード業界はまたも水面下での反撃に転じ、結局、同6月に決定された「知的財産推進計画2006」では「音楽用CDにおける再販制度について検証する」にまで文言が骨抜きにされてしまう。

 今のところ、日本レコード協会に代表されるメジャーレコード業界の公式の態度は「再販死守」である。しかし、それで消費者を納得させ続けられるとも彼らは考えていない。そこで、いろいろと懐柔策を打ち出してくる。

 例えば、最近増えているDVDのおまけ付きCD。DVDは再販の対象ではないので、こちらは値引きが自由である。同協会によれば、こうした「DVDおまけつきCD」は売り上げ全体の15%弱にもなっているという。

 また「時限再販」という制度もある。これは、発売後半年が経ったCDは自由に値引きしていいという制度。しかし、この「半年」という期間がくせ者だ。新譜の売り上げの8割から9割は、発売後半年で稼ぎ出されるからである。レコード会社の懐はあまり痛まない。

 かくして現在、再販の対象商品は新譜タイトルの5.6%にすぎない。残りはすべて自由価格というのが現状なのである。

 こうなると、一体なぜ再販死守を叫んでいるのか訳がわからない。

 が、この「5.6%」には、浜崎あゆみや幸田來美のような稼ぎ頭が含まれることや、前述のようにCDというものは新譜発売半年でほとんどの売り上げを稼ぎ出すことを忘れないでほしい。レコード業界はこの「5.6%」がどれくらい利潤を上げているのか、口をつぐんでいる。

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