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インターネットの不自由元年 ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]


今年2010年は日本のインターネットにとって暗い年になりそうだ。

インターネット上での発言に刑法の「名誉毀損罪」が適用され、逮捕・起訴される人が続いたからである。

つまり、ネットに書いた内容が原因で留置所(あるいは拘置所)にぶち込まれ、家を捜索され、法廷に立たされる時代が来たのだ。

一人はブログを書いた65歳男性、

もう一人は2ちゃんねるに書いた大学生だ。

私は二つの事件を取材して裁判も傍聴している。

「これで逮捕されるなら、もっと逮捕者は拡大するだろう」と思った。

ブログで逮捕されるなんて、何だか戦前の思想統制時代のような話だ。

65歳男性の方は、勤めていたマンション会社の経営批判をブログで書き続けていたら、その会社が警察に被害届を出し、逮捕された。

「給料のピンハネ」とか「偽装請負」とか多少言葉遣いは乱暴だし、イラストその他デザインは悪趣味だ。

確かにそれはそうだが、それが逮捕しなければいけないような「犯罪」なのだろうか。

しかも、その人が批判している内容というのが、その企業が労働基準監督署から是正勧告を受けた話や、新聞が報道した話だ。「根も葉もない話」ではない。

もう一人の23歳の男性大学生は「2ちゃんねる」に参議院選挙の候補者(とその家族)の悪口を書いて逮捕された。

しかし、その悪口というのが「売春婦」とか「鬼畜」とか「変態」とか、下品すぎて逆に「子供のイタズラ」か「落書き」程度だとすぐにわかる。

書かれた本人は不愉快だろうが、ばかばかしすぎて第三者は真剣には取らない。

裁判を取材に行ったら「被告」は野球少年みたいな丸刈り・眼鏡に紺ブレザー、白スニーカーの「男の子」で、どんなにおかしな悪人かと思ったら拍子抜けもいいところだった。

裁判官や検察官を前に「まさか逮捕されるとは思っていませんでした」と縮み上がっていた。

これまで刑法の名誉毀損罪で逮捕されるというと「浮気をした愛人の裸の写真をビラにして自宅の周辺に撒いた」とか「私人同士のトラブル」が多かった。。だが、上場企業や国会議員候補者は自ら名前が知られる活動をしている「公の存在」だ。

批判や検証、あるいは「落書きのネタ」にされるのは避けられない。逮捕・起訴するにしても根拠が薄弱すぎるのだ。

どうして今年になって、ネット発言で逮捕などという危険な領域に警察や検察は踏み込むようになったのか。

そう考えて思い当たったのが、今年3月に確定した最高裁判決だ。

「あるラーメンチェーン店の経営陣がコリアンや同和系に差別的なカルト団体とつながりがある」。あるブロガーが調べてそう書いた。

書いてあることはほぼ事実なのだが、ラーメン会社は民事と刑事両方でブロガーを訴えた。

一審無罪、二審有罪と攻防が続いたあと、最高裁で罰金30万円の有罪判決が確定。

ブログの発信による誉毀損罪有罪が最高裁で確定したのは初めてだ。

地裁・高裁の判決は最高裁判例の拘束を受ける。

つまり「刑法の名誉毀損で逮捕・起訴しても、有罪に追い込める」というお墨付きを警察や検察に与えてしまった。

上記のマンション会社事件が摘発されたのが二ヶ月後の5月。

2ちゃんねる事件の摘発が同じ7月だ。

これは偶然ではないだろう。

匿名なら、誹謗中傷や脅迫を書いたりいじめや「炎上」を起こしてもバレないという誤解がネットユーザーにはある。

が、ネット専門家の弁護士に聞いてみると「いまネット上の匿名は事実上存在しないのと同じ」という答えが返って来た。

02年に施行された通称「プロバイダ責任制限法」で、ブログのコメントやBBSに書き込まれた匿名発言者の身元を調べることができるようになったからだ。

プロバイダが拒否して裁判になったときの判例も蓄積ができて、今では、身元を隠すための特殊な技術的偽装をしない限り、発信者の住所氏名は遅かれ早かれわかるようになっている。

インターネットがらみの事件が急増しているため、警察や裁判所は事件を抑止したがっている。被告の扱いは厳しい。告訴・告発されると、まず助からない。

そもそも、逮捕・勾留・家宅捜索など強制捜査を発動できる「名誉毀損罪」が今でも必要なのか。

問い直した方がいい。

刑法の名誉毀損罪は、戦前の旧刑法から「堕胎罪」(刑法の上では今でも妊娠中絶は犯罪)などと同じように横滑りしてきた条文だ。

コピー機すらなかった時代にできた法律なのだ。

現在のようなマスメディア、特にインターネットなどまったく想定していない。

そんな法律が放置され、ネットユーザーはその恐ろしさを知らないままになっている。あまりに危険だ。

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