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音楽はタダになる ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

8月22日にレコードストア「HMV」渋谷店が閉店したのはニュースでご存知かと思う。

私もテレビ局のインタビューを受けたので「個人的には寂しいですね」などと社交辞令を言っておいた。

が、正直言うと、リアルの店舗ではもう何年もCDを買っていない。

ほしいCDは家のパソコンからアマゾンで買うし、

買うほどでもないものはYouTubeで無料で聞く。

同店で「渋谷系」が生まれた90年代前半の「青春の思い出」を別とすれば、閉店しても特に不便はない。

「リアルの店舗でCDを買う」という習慣が死滅していく原因は、間違いなくインターネットのせいだ。

しかし、それはレコード業界が言い張るような「違法ダウンロード」のせいではないし「ファイル交換ソフト」のせいでもない。

簡単にまとめてみよう。

(1)「CD不況」ではあるが「音楽不況」ではない。

CDは売れなくなったが、音楽業界に入るお金はまったく変わらないどころかむしろ増えている。着メロ、iTuneなどインターネットによって音楽業界に流れるお金は増えている。JASRACの統計を見れば一目瞭然だ。

(2)いま音楽を無料で消費者に届けている最大のメディアは「違法ダウンロード」や「ファイル交換ソフト」ではない。YouTubeである。

いまYouTubeを検索すれば、ビートルズやエルビスのテレビ画像から由紀さおり、AKB48に至るまで、私のような音楽マニアでも「出てこない画像」はないと感じるくらい豊富なコンテンツが流れ出す。
その種類の多さ、検索の精密さ、家にいながら未知の音楽に触れることができる便利さ。CDストアどころか、どんなラジオやテレビも太刀打ちできない。
「世界中よってたかってつくる巨大なリクエスト式音楽図書館」が家にあるようなものだ。
ここまで来ると「音楽のオリジナルを所有し、消費者にそのコピーを売って料金を取る」という現在の音楽ビジネスはもう終焉に近づいていると考えるのが自然だ。
早い話「音楽は間もなくタダで聞くのがコンセンサスになる」というのが私の正直な予測だ。

こういうと音楽業界の人たちはカンカンに怒るのだが「技術革新の結果、それまでは生活必需品だったものがある日突然無価値になる」という現象は、技術史的には珍しいことではない。

自動車が発明されたときの馬、電気と電球が発明されたときのランプやロウソクなどを思い起こしてほしい。

かつて電気や電球が普及するまで、家庭に「灯り」を点していたのはランプやロウソクだった。家庭の近くにはランプ・ロウソク店、ランプ燃料店があって「灯り」は家庭の近くで買うものだった。

しかし「電気」という新しい技術が普及した結果、電気は「どこか遠くの発電所でまとめて発電して送られてくるもの」になり「どこの発電所でつくられたのか」など誰も気にしない。

つまり「照明」というエネルギーの供給源は「それぞれの家庭近くに散らばっている」(ランプ油店)から「どこか遠くの一カ所に集中している」(発電所)に状態を変えたわけだ。

かつて世界にいくつくらいのランプ油店があったのかわからないが、それが「電力会社」に取って替わられ「照明エネルギー販売会社」の数が劇的に減ったことは間違いない。

この産業構造の転換を音楽に当てはめてみればいい。

音楽は「どこか遠くの」「数の少ない」「発電所のような集中型の貯蔵所から」「インターネットという送電線を経由して」消費者に送られてくるものになる。ランプ油への需要そのものがなくなるので「ランプ油店」(レコード店)も消滅するし「ランプ油生産者」(レコード会社)も廃業である。

音楽は、どこかアメリカかヨーロッパにある巨大なサーバーコンピューターに貯蔵され、こちらから注文すると送信されてくる。少数の「電力会社」が「電気料金」で収益を上げる。そんなビジネスモデルになるだろう。

こうして見ると、音楽のインターネット流通は限りなく「ネット放送局」に近づくのにお気づきだろうか。

数千~数万枚というレコードライブラリー(今まではラジオ局や家庭にあった)は、発電所のように世界に何カ所かあればよい。一般家庭は、送電線で電気を受け取るように、インターネットで音楽を聞く。

このビジネスモデルに近い動きをしている代表がYouTubeだ。インターネットという電気に匹敵する技術革新に鈍感な日本企業は、悲しいほど出遅れている。

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