松本人志 生涯汚点の失敗作 [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
関西人というものは、テレビはもちろん学校・家庭と、どこであろうと「笑い」の中で育ちます。
日常会話でユーモアのない人間は「おもろないやっちゃなァ」と人間失格の烙印を押され、学友や親兄弟にイジメられます。
そんな文化圏で育った小生ですので、コメディには偏執狂的愛着がある。ありがたや、昨今はDVDが普及したおかげで、世界各国のコメディを観賞できる。おかげで良質のコメディには共通した性質がいくつかあることに気付きました。
1)良質のコメディは違う文化や言語の人間も笑わせる=その意味で英国コメディは強い。「モンティ・パイソン」や「ミスター・ビーン」は誰が見ても笑える。強欲、無知、虚栄といった人類共通のアホンダラぶりを的確に描くからです。米国の「サタデー・ナイト・ライブ」などは彼の国独特の人種、ゴシップネタが多くて異国人にはわかりづらい。
(2)シモネタ、差別ネタ、暴力ネタといった「社会の良識」(タブー)に挑戦する。
(3)「権力もカネもない弱い人間」の視点にいる。権力者を笑い者にする。
前置きが長くなりました。そんな小生、ダウンタウンの「ごっつええ感じ」(91年〜97年、フジ系列放送)を見たときは、毎回ションベンちびるんじゃないかというほど笑った。頭のおかしな料理講師がお料理番組をメチャメチャにしていく「キャシィ塚本」シリーズのほか「しょうた!」「MR.BATER」などのコントは「コント55号」や「ゲバゲバ90分」「8時だョ!全員集合」に肩を並べる歴史的名作だと確信いたしました。
その企画や構成を一手に引き受けてきた松本人志が5年かけて構想、監督・主演もしたというのですから、映画「大日本人」が公開されたときは胸が高鳴った。ええ、映画館に走りましたとも。
しかし何としたことでしょう。チットモ笑えないのです。
自称・他称天才マツモトの映画なのにこんなにつまらないなんて、小生のユーモア感覚が異常をきたしたかと思いきや、満員の客席(箸が転んでもおかしい女子高生で一杯)が終始クスリとも笑わずシーンとしている。
ほか、誰に聞いて回っても「おもしろくなかった」という。これはもう、結論づけざるをえますまい。
「『大日本人』は松本人志のコメディアンとしてのキャリアに汚点を残す失敗作」と。
なぜなんだ。首をひねり続けていたある日、ダウンタウン番組常連のコメディアン・俳優板尾創路(この人も優秀)の著作「板尾日記2」(リトル・モア)にこんな記述があるのに気が付いた。
「松本さん中心のコント番組の打ち合わせを、恵比寿のウェスティンホテルで行った。しかも最上階の1泊18万円強のスイートルームだ」
これ読んだ瞬間、小生、シラけた。一瞬であほらしくなった。1泊18万円のスイートルームで打ち合わせ?
何やねん、それ。そんなん「お笑い貴族」やんけ!
よく考えてみりゃ、松本氏、1993年から2004年まで「高額納税者」のベストテンに必ず入ってるんですな。
最高納税額は2億6340万円(95年)。同じ年、政治家の最高額は河野洋平氏の6330万円だった。桑田佳祐でも1億5000万円、プロ野球の落合博満選手でも1億6674億円だった。
はっきり言っちゃえば松本氏は河野も落合も桑田もぶっ飛ばしちゃう大金持ち。その人気がもたらす影響力でいえば、もはや「権力者」そのものといえるでしょう。
権力者の特徴は、回りに「NO」を言う人間がいなくなることです。チームワークでつくるテレビ番組に比べて、監督の裁量が大きい映画では、それがより露骨に出たのでしょう。
それに、そもそも権力者を撃つのが「貧者の武器=笑い」なんだから、権力者がつくったコメディなんぞおもろいわけがない。
松本さん、めげずに次は笑える映画を作ってくださいネ。
「お前なんぞに言われとないわい、やわらかウンコ!」
そうそう、その意気ですよ。
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