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行定勲監督、おかえりなさい! [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

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「週刊金曜日」をご購読されるような善男善女の皆様は、映画をご覧になるときどんな規準で作品を選ばれるのでしょう。

 やはりハンセンとかハンカクとかカンキョーホゴみたいな「テーマ買い」でしょうか。それとも案外ミーハーに「ヨンさま出てるから」みたいな「俳優買い」なのかもしれませんね。

 小生ですか?

 小生は変人ですので「監督買い」です。

「この監督の作品なら大丈夫」という規準で選びます。

 米国なら、史上最年少26歳でカンヌ映画祭パルム・ドールを取った天才、スティーブン・ソダーバーグ(オーシャンズ18だか19だかは嫌いですが)。

 時間軸がメチャクチャな不思議な作品を撮るクリストファー・ノーラン。

 天才と狂気の境界を疾走するデビッド・リンチ。

 スパイク・リーはここでも書きましたね。ベテランではマーチン・スコセッシ、いいなあ。

 英国では「トレインスポッティング」で有名になったダニー・ボイルが好き。

 フランスならリュック・ベッソンやパトリス・ル・コント作品は必ず見ます。

 日本人はおらんのか? おりますとも。

 犬童一心、岩井俊二、三木聡、中村哲也、三池崇史……まだ続けます? 

 中でも敬愛し、ほぼ全作品見ている監督は、一九六八年生まれの俊英・行定勲であります。

 ユキサダて誰やねん。はい、「セカチューの監督」と言えばイッパツでお分かりいただけるでしょう。

 いやいや、馬鹿にしてはいけません。「世界の中心で、愛をさけぶ」の原作小説は、映画にすると破滅的に退屈なストーリーなんですが、行定監督は原作にない「律子」(柴崎コウ)というキャラクターを付け加えて脚本を書き、映画を原作とはまったく違う、起伏ある物語に仕上げた。

 長澤まさみチャンの可憐さにもシビレましたが、行定監督の「ストーリーを自分で書く才能」には敬服したものです。

 そして行定作品はどれも照明が美しい。

 白熱灯のオレンジ色を生かして撮影した「ユキサダ・オレンジ」とでもいうべき色使いは、彼のシグネチャー(署名)になっています。そんな個性を持つ監督は日本には少ない。

 しかし!「北の零年」「春の雪」(〇五年)と、彼はトンデモ駄作を二本続けます。

「北の零年」は、明治維新直後の北海道開拓民の話ですが、吉永小百合の、横にシャ■プの液晶テレビが置いてありそうな絶望的に単調な演技(もしアレが演技と呼べるなら、ですが)が、見るも無残でした。

「春の雪」は三島由紀夫の「豊饒の海」が原作。

 その「人間嫌いの厭世家」の主人公に「爽やかな好青年」しか演じられない妻夫木聡を当てるという馬鹿げたミスキャストのせいでカネ返せ的失敗作に終わっています(竹内結子の超絶演技が唯一の救い)。

 ああ、行定監督は低予算で若者の群像劇(『きょうのできごと』とか『GO』とか、あのへん)を撮っていたころの方がよかったなあ。

 エラくなって大予算作品やるようになって彼もダメになったか。小生、落涙したものです。

 そんな行定監督が、新作「遠くの空に消えた」を公開しました。

 七年ぶりのオリジナル脚本、つまり自分でストーリーを書いた作品だそうです。

 行定さん、やっぱり、こっちの方が断然いいですよ。

 空港反対運動に騒然とする田園地帯を舞台にした、腕白少年たちと、どこか欠損を抱えた大人たちの群像劇。

 その複数のストーリーが、最後に奇跡のようにひとつになる。それもあの「ユキサダ・オレンジ」の「あるもの」によって。ファンタジックな物語ゆえ、アラは山ほどありますが、小生、なぜかは知らねど最後ウルウル来ました。

 もうすぐ次作「クローズド・ノート」も九月末から公開されるとか。

 今度も「大作」じゃなくて小品らしい。うれしいねえ。

 おかえりなさい、行定監督。

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