ヤンキーラップ これほど素晴らしい音楽はめったにないぞ [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
「ケンカの弱い奴がパンクスになり、強い奴はヤンキーになる」
そうおっしゃったのは誰あろうご自身もパンク歌手でおられる町田康様であります。
けだし名言。
小生が京都のパンクロック周辺でウロチョロしておった若かりしころ、パンクスって意外にガリ勉あがりが多かった。
メガネ取られて急に強くなるいじめられっ子の逆襲て言いますか、鬱屈した暴力衝動が頭頂から噴出してモヒカン頭。が土台元が生徒会役員上がりですからライブハウス前でたむろ・ケンカ弱いの忘れてメンチ切って地元ヤンキーと乱闘・ボコボコにされパンクス全員顔面出血し路上に昏倒。と情けないありさま。
しかも元パンクスども、今じゃ編集者・大学教員・銀行員など勤勉労働、・高校生の父親などと、すっかり健全な市民生活を送っておる。
そこへ行くとヤンキーの皆さんは気合いが違う。マジな話、低学歴・低収入という点でホンマもんの日本のアンダークラスであります。社会構造的にいえばアメリカのアフリカ系やラテン系、イギリスの労働者階級と近い。
さらに言えば「ヤンキー文化」ってのは日本の若者文化の中で欧米にお手本がない完全ジャパンオリジナル。いやマジっす。その意味で私はヤンキーとギャルは欧米のマネでない日本発の独創的なユース・カルチャーだと本気で考えておるのです。
じゃあそのヤンキーから音楽文化が生まれたかっていうと、それが意外にない。
矢沢のエーちゃんとか横浜銀蝿とか亜無亜奇異とかあるにはあるんだが、どっちかってえとそれは「ヤンキーのみなさんが愛聴する音楽」だった。ご本人たちはシャコタンと集会とケンカに忙しいのか、ギター持って曲書いて、何て創作活動にはなかなか入って来ん。イギリスのパンクやアメリカのブルースみたいなアンダークラス発の音楽ムーブメントにならないんだわ。
ところがこの状況がラップ・ヒップホップの登場で激変した。なんせ詩さえ書ければ歌メロ書く必要ないし、楽器の練習する必要もない。しかも最近じゃYouTubeもあるからネットで動画見て歌も聴ける。うひゃー。
で、すごい傑作がどんどん出てきたぞ。今年その名も「獄窓」ってアルバム出した「鬼」(ラッパーの名前ね)のアルバムの「小名浜」って曲は泣けます。
これ福島県いわき市の小名浜のことだと思うんだけど、たぶん鬼の故郷なんだろうな。都会的な華やかさとは全然無縁の地味な漁師町が舞台、そこで語られるのは主人公の子どものころの話なんだが、それこそ低所得、父親が7歳で出奔、水商売の母が団地で彼と妹を育てるんだが、主人公は中学卒業と同時に矯正院だか少年院だかを出たり入ったり。それはまるで小名浜のかもめのよう。ううう何て美しい歌なんだ。
こういうアンダークラスの日常風景を歌っているという点じゃAnarchyの「fate」もすごい傑作ですな。どこか都会の巨大団地。潤いもクソもない殺風景。アル中のオヤジの怒声、虐待される隣の女の子の悲鳴。真っ暗な家に慣れた小二。キレイごと言っても結局全部カネ。ああなんてリアルなんだ。
低所得者が住む団地、崩壊した家庭、薬物依存、ドメスティックバイオレンスと、彼らが歌う風景は驚くほどアメリカのラッパーやアフリカ系ミュージシャンが歌ってきた風景と酷似している。
今や新自由主義経済が世界を覆うと同時に格差社会は各国共通の社会問題となり、未来を奪われた若者はそのフラストレーションをラップに叩きつけるのであったなんて小賢しいインテリ気取りのブンカジンみたいな痴れ言いうとる場合かボケ。
ヤンキー、いや正真正銘の我が国のアンダークラスがやっと自分の言葉を見つけて音楽というメディアで彼らの世界を歌い始めたのですよ。
ロックだパンクだってたってしょせんミドルクラス家庭のボンボン&お譲ちゃんの手すさびだった我が国じゃ、これは革命的なことなんだぞ。
最近itunesでばかり曲を買うので、洋盤のライナーノーツなども読まなくなり、
音楽評論に疎遠になっておりましたが、烏賀陽さんの記事を読み心が熱くなりました!!
ヤンキーラップも一つのジャンルとしてもう確立されておりますので、それはそれで面白いと思うですが、
やはりカッコウイイのは(旬といいましょうか)音楽的に新しいラッパー達のような気がします。
環roy
http://www.youtube.com/watch?v=pN7NyIE3Rfc
*ちなみに私は環royの回し者ではありませんw
これからも頑張って下さい!!
by 初めまして! (2010-01-04 23:10)