PANTA 1980X 30年経って価値のわかる音楽アルバム [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
ぐわわ、もうそんな季節!?とパニックする人間どもをよそに地球は無慈悲に公転を続け、はや年の瀬。
この時期ともなりますと、全国紙・総合雑誌などにて音楽ヒョーロンカの先生方が「今年の傑作アルバム・ベストテン」などと御健筆、小生それを横目で見て「ムフフ、そろそろ執筆依頼が来るかな?」などと電話の前にて待ち焦がれるのですが、どうしたことでしょう、ウンともスンとも話が来ない。
うるる枕を涙で濡らす。
そんな烏許の沙汰を毎年繰り返すうち、小生はすっかりいじけ切ってしまいました。
もうこうなったら自分で書いてまえ。題して「過去30年からウガヤが選ぶ日本のポピュラー音楽ベストアルバム」だ。どーだ参ったか。
前フリ長いな、いや失敬。では発表です(ファンファーレ鳴る)。
受賞作はパンタ&HALの「1980X」であります。
何やて? ソレ見ろ、週刊金曜日はサヨク雑誌だから日本赤軍シンパのパンタのアルバムなんかホメてる、てか?
そういう阿呆な寝言いっている人、一歩前に出なさい。
絹ごしとうふあげるから頭部を自分で殴打しなさい。うどんあげるからそれで首を吊りなさい。
おのれ戯けども、そのような程度の低い話ではござらん!
このアルバムは、そのタイトル「1980年代のいつか」のとおり全10曲が「近未来の日本の姿」というテーマで貫かれております。
小生がこの作品に驚嘆するのは、1980年にパンタが歌で予言した数々の不吉な近未来像が、2007年のいま、ほとんど現実になってしまっていることなのです。
すなわち、ハイテクによる監視・管理社会や遺伝子操作、石油をめぐる戦争、社会暴力のありさまであります。
例えば「IDカード」という歌。「IDカード No.2525/名前なんて捨てられた/IDカード No.2525/この数がおれの名前さ/それでもこうしてる間に見張られつづける/コントロールされた数字に守られて」という歌詞は、02年8月に稼働し始めた「住民基本台帳ネットワークシステム」の姿そのもの。
「何でそんなことが予見できたの!?」と驚かずにはおれません。パンタが歌った「IDカードナンバー」は「住民票コード」という名になりましたが。
そのほか「モータードライブ」はカメラで市民を監視する男の話を歌っている。
どっかで聞いたことありません? そう、87年から導入された「自動車ナンバー自動読み取り装置」(通称Nシステム)や、「犯罪防止」を名目に街角のあちこちに設置された監視ビデオカメラに取り囲まれた、現在の日本社会の姿そのものではありませんか。
「ナイフ」という曲で「ただその笑い方だけ 気にさわっただけさ/だから目の前にナイフ ちらつかせただけさ/それなのに本気になるから」と描かれる、些細なことでキレてナイフを振り回しては教師や家族、通行人を殺傷する犯罪は、パンタがこの歌を書いたずっと後になって社会問題化しますよね。そんな曲が並んでいる。
英語には”stand the test of time”という成句があります。「時を経て真価が証明される」。そんな意味です。
小生はこの言葉を「1980X」に贈りたい。この作品は27年を経て「かつて音楽で社会の危機を警告する者がいた」ことを証明する名作なのですから。
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