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高齢者用エロ映画だと思うな!「ラスト、コーション」 [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

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「世界を騒然とさせた過激なセックス描写」
「アメリカでは成人指定」
「本番をやっているのではとの噂も」

 云々、善男善女のスケベ心、いやちがった知的好奇心くすぐる前評判が広まったせいでありましょうか、アン・リー監督の「ラスト、コーション」は、単館上映系の地味な人間ドラマがいつものこの監督にしては異例の拡大ロードショー・ロングランになっております。

 元よりスケベ、ノーノー知的好奇心旺盛な小生も公開初日に東京・日比谷のオッシャレーな映画館へダッシュしたのですが、何と二回先の最終回まで売り切れで入れん。

 ぎゃわ。こうなったら意地でも見てやると平日昼間に行ってもまた満員。何なんだこの熱気は。

 着席して周囲を見回すと、観客の年齢がやたら高い。

 どう見ても男は定年退職者だなカップル、あるいは、映画が描く日本軍統治下の上海で姑娘とラブラブしたのか?って遠い目をした爺ちゃん。そんなのばっか。

 だから、映画が始まってもゲホゲホ咳が止まらないし、フガフガムニャムニャ独り言いってるし、あああああうるさいっちゅーねん。

 それが!噂の「過激なラブシーン」になると、急にみなさん静かになるからおかしい。

 ゲホゲホもフガフガもピタリと止まり、シーンとなった場内にウエイ・タン(抗日スパイ役)とトニー・レオン(親日政権の秘密警察高官役)のアヘアヘ声だけが響く。そしてしばらくすると、回りのあちこちからゴクっと唾を飲む音がするんだな。終わるとフーとため息。もうカンベンしてよお父さんお爺ちゃん。

 その後もラブシーンのたびにゲホフガ→アヘアヘ→シーン→ゴク→フーなんだもん。みなさんわかりやす過ぎ。

 これは映画より観客観察の方がおもしろい。とふざけた考えはすぐ実行に移す小生、わざと平日の「レディース・デイ」(女性割引日)にゴーバック。

 ぐわわ、また見たこともない長蛇の列だ。今度はオバチャン、おっと間違えた、妙齢の女性ばっかりだぞ。しかも集団で来ているからペチャクチャうるさい。

 だが映画が始まったら、おおやっぱり同じだ。ペチャクチャ→アヘアヘ→シーン→ゴク→フー。ほんま笑かしよるなあ。

(ご参考までに。いやまあ、確かにボカシが入りますよ当該のシーンになりますとね。でもね〜最近のアダルトビデオに比べりゃカワイイもんすよこんなもん。むしろメープルソープのヌード写真みたいに芸術的で美しいです。)

 アン・リー=漢字で書くと李安監督はもともと台湾人です。国立台湾芸術大学を卒業してからアメリカに留学して英語と映画を勉強し直し、四十歳近くになってから世界で認められたという遅咲きの俊英。

 本作を前作「ブロークバック・マウンテン」(そんなつもりは全然なかったのに、激しい恋に落ちてしまって二十年間人目を避けつつ愛し合い続けるカウボーイ二人のお話)との「双子の作品」と位置づけています。

 本作の原題”Lust, Caution”は「体だけのセックスだと思ったらご用心」とでも訳せばよいでしょうか。

 人間、本気で愛し合える相手は一生のうちそんなに何人も出会うもんじゃない。その相手は同性かもしれないし、戦争の敵同士かもしれない。そんな不思議が人生には起きるんだ。

 李監督の作品にはそんな深遠な洞察が込められているのですが、まあゲホフガ→アヘアヘ→シーン→ゴク→フーでご鑑賞されるみなさんのお姿も、それはそれでまた人生ってもんですね。

 いやあ映画って本当にいいもんですね。


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