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成長の神話を失った日本にフヌケ男大量発生 ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

071203ヌメロ・フヌケ男はなぜ発生するのか

 「ギャル男」クンだとか「おネエマンズ」だとか、ワケの分からん男どもが大量発生、「もはや理解不能」と頭を抱えておられる読者は多いのではなかろうか。

 また職場や学校に「それでもお前、男か」と怒鳴りつけたくなる「フヌケ男」がいてトラブル頻発、ムカつきっぱなし。そんな経験はないだろうか。

 乱暴を承知でそうした現象をひと括りにしてしまうと、こんなことが言える。

 いま日本社会は「成人男性」の定義を見失ってしまっている。「成熟した大人の男性とは何か」という社会規範や共通理解が崩壊し、混乱しているのだ。

 なぜか。日本社会はいま二重の意味で「成長の物語」を失ってしまっているからだ。

 まず明治時代に始まった長いタイムスパンでの「成長の物語の喪失」から説明しよう。

 明治維新以前、俗にいう「近代化」以前の日本社会には、若者は「この儀式を済ませたら大人として振る舞わなくてはいけないし、社会もその人を大人と見なす」という「成人の儀式」を通るのが当たり前だった。

 武家や公家社会では「元服」と呼ばれ、だいたい15歳から20歳の間に済ませた。農民社会にも「名替祝い」「褌祝い」という儀式があった。

 ちなみに、こうした成年の儀式は日本だけの現象ではない。世界中どの文化にもある。民俗学や心理学、神話学ではこうした「それを済ませると一挙に大人になる儀式」のことを「通過儀礼」(イニシエーション)と呼ぶ

 ところが、明治時代以降、こうした成年式は次第に姿を消した。代わりに登場したのが「時間をかけて徐々に大人になる」という考え方であり、この時期に日本人は「青年期」「青春」という名称を与えた(精神分析学者・河合隼雄の説)。

 この「成年式の消滅」が、一つ目の「成長の物語の喪失」である。

 二つ目の「成長の物語の喪失」は、1990年代、バブル景気がはじけた後の暗くて長い「平成大不況」と共にやって来た。

 それは、戦後ずっと日本人を駆り立ててきた「経済による成長の物語」の前提である「終身雇用制」と「年功序列賃金」を企業が捨てたことに起因している。

 明治維新から1945年の敗戦まで、日本社会を動かした「成長の物語」は帝国主義的手段による政治・経済発展だった。

 が、それが敗戦によって破綻すると、今度は平和主義的手段による経済発展が取って代わった。その最高潮としての高度経済成長期以降は、企業体が通過儀礼を受け持つようになる。今でも、学生が就業すると「社会人」(=社会の一員)と呼ばれるのはその名残である。

 企業体はさらに、生涯を通じての「成長の物差し」を日本人に用意してきた。係長→課長→部長と役職が上がる「昇進」や、給与の「昇給」で目盛りが上がるたびに、人生の「成長」を計測することができたのである。ここで前提になっているのが、同じ企業体で一生働くという終身雇用制と、雇用年数が増えると給与も自動的に上がるという年功序列賃金だった。

 つまり生物的な加齢と、企業での昇進・昇給がぴったりと一致していたからこそ、「企業での成長=人間としての成長」という図式がそのまま受け入れられ、社会に定着したのだ。

 ところが、戦後50年近く日本を貫いていたこの二つの制度が、90年代になってこっぱみじんに吹き飛んでしまった。日本経済は成長どころか長い不況のどん底を這いずり回っている。企業そのものが倒産や吸収・合併で消えてしまうことも珍しくない。従業員を「リストラ」という名前で解雇するのも、「派遣社員」など「非正規雇用」も当たり前になった。年功序列賃金は「実力主義賃金」に取って代わられ、加齢しても賃金が上がるという保証はなくなった。

 こうして、過去50年日本社会を動かしてきた「もう一つの成長の物語」は消滅した。

 日本人の「成長の尺度」は大混乱に陥った。成長の尺度を失った日本人には「大人とは何か」「成熟とは何か」を定義することは、もうできない。つまり親世代が若者に「こういう大人になれ」というお手本が、もはや存在しないのである。

 高度経済成長を支えた企業従業員の大半が成年男性だったことが災いし「成熟した男性」のお手本が先に破壊されたため「大人の男」の定義は余計に混乱している。もちろん女性側も混乱しているのだが、紙数が尽きた。そちらはまたの機会に。


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