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オンナの花道できたはいいけど ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

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 時が経つのは速い。ふと思い出してみると、今年4月1日で「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」いわゆる「男女雇用機会均等法」が施行されて22年が経つ。

 つまり、この法律が施行された年に生まれた赤ちゃんが、今春大学を卒業して労働力の仲間入りをするわけだ。

 均等法以降の若い世代には信じられない話だろうが、1985年以前、新規雇用、特に新卒学生の求人に男女差別があるのが当たり前だった。いわく「採用は男子学生のみ」「女子は一般職(管理職になれないノンキャリア職)のみ採用」などなど。

 ひどいのになると「女子学生は自宅通勤者のみ採用」などというワケのわからん条件を、旧財閥系銀行や一流メーカーが平然と掲げていた。

 なぜ下宿暮らしの女子学生が労働力としての対象から除外されるのか不可解もいいところだ。が、当時企業の採用担当者が「独り暮らしの女子学生は性的に乱れている」と真面目な顔で言ったのを、当時大学生だった私は覚えている。

 江戸時代か、それともタリバーンの支配国かと耳を疑うけれど、22年前までの日本企業は本当にそんな程度だったのである。女性が差別なく働ける職種は公務員、教師、記者・編集者など微々たる数しかなかった。

 実をいうと、この時点では募集・採用、配置・昇進については「努力目標」にすぎなかった。募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差別を「禁止」したのは1999年である。まだ10年も経っていないのだから大きなことは言えない。

 それでも「男女雇用機会均等法」は日本女性のライフスタイルを劇的に変えた。女性が男性と同じようにキャリア社員として雇用され、昇給や昇進でも差別されない。

 それはすなわち、女性が男性と対等の経済力を持つ=「同等におカネを稼いで自分の意思で商品を購買できる」ようになることを意味している。

 メーカーはこぞってこの新しい購買層をマーケティングの主軸に据え、彼女たちが買いたくなるような商品を競って開発した。

 テレビ局やレコード会社は「F1層」(20〜34歳の女性層)をターゲットにした番組や歌手、曲を送り出しヒットさせた。「東京ラブストーリー」に代表される「トレンディ・ドラマ」だとか渡辺美里や中村あゆみといった「ガールズ・ポップス」がそれに当たる。

 しかし、これで万事めでたし、とはいかなかった。女性の人生の選択肢が一気に増えすぎたのである。

 例えば、20代後半から30代前半の女性には(1)キャリア社員として就職するかしないか(2)結婚するかしないか(3)子供を産むか生まないかと、単純計算で8通りの人生が選択できる。

 しかも、どの選択肢も、伝統的な価値観(主に親が体現する)から離脱しようとすると、摩擦が必ずといっていいほど起きる。

 男性は哀れなほど単調なままだ。旧来からのライフコースが堅牢にでき上がっていてなかなか崩れない。「就職」「結婚」について「NO」はほとんど選択肢として考慮されない。

 かろうじて「DINKs」(Double Income, No Kid=共稼ぎ・子供なし)という言葉で「子供を持たない」という選択肢が許容された程度である。が、DINKsも女性が経済力を持って初めて成立するライフスタイルであり男性の選択ではない(現在は当たり前すぎてDINKsは死語になった)。

 かくして、経済力を得た女性にとって「結婚」は「しなくてはいけないもの」ではなく、買い物と同じ単なる人生の選択枝のひとつにすぎなくなってしまった。

 かつて25歳を過ぎて独身でいる女性は「クリスマスを過ぎたクリスマスケーキ」(賞味期限切れ)「オールド・ミス」(独身老女)と揶揄された。

 独身でいることがと社会的・道徳的に「悪いこと」のように非難されたのは、女性が企業で働き収入を得る道が閉ざされていたからである。つまり独身でいると経済的に損をしたのだ。

 が、いま定収入ある女性にとっては、結婚をしなくても誰にも経済的に依存する必要がない。だからはっきり言ってしまえば、結婚などしようがしまいが、女性にとって経済的重要度は実は低い。

 エッセイストの酒井順子が30歳を過ぎて独身の女性を気軽に「負け犬」と呼べたのは、もはやそう呼んでも激しい反感を買う「死活問題」ではなくなったからだ。

 かくして、日本女性は莫大な自由を手にした。が、お手本のない自由は時に人を混乱させる。

 フェミニズムの第一人者・上野千鶴子は「日本の企業社会は『成人男子』しかロール・モデルを用意してこなかった」という鋭い指摘をしている。

 今のところ、女性が企業社会でキャリア職として上昇するためには「オッサン化=企業という男系文化社会に合わせる」しかない。結果は「男性化した女性サラリーマン」が大量発生しただけ。

 アフターファイブに上司の悪口や仕事の愚痴を言う場所が赤提灯からイタリアンレストランに変わっただけで、やっていることは昔のモーレツサラリーマンと同じだ。

 これが彼女たちの望んだ人生なのだろうか?



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