地球温暖化には原発しか選択肢がないってホント!? ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

この夏「地球温暖化防止のため」と、エアコンの設定温度を28度にして汗だくで我慢したエコ派のみなさんにはショッキングなお知らせです。
みなさんの努力は無駄でした。それどころか、いま世界で原発が建設ラッシュです。そう、エコ派が「環境保護派」と呼ばれた90年代、彼らがあれほど忌み嫌った原子力発電所が、です。
今回はこの壮大な皮肉についてご説明しましょう。
まず、基本的な事実から押さえておこう。エコ派の涙ぐましい努力にもかかわらず、日本の家庭用電力消費量はバブル期の80年代から一貫して増え続け、まったく減る気配がない(エネルギー資源庁による)。
その大半は「照明•エアコン•テレビ•冷蔵庫」である。
「え?ウチは節電型使ってるのに?」なんて言っているあなた、食器洗浄機だとか大型液晶テレビとかパソコンとか、新しい家電製品、買ってません?それじゃだめです。
個人消費が衰え、泥沼の平成不況でもがく日本ですらそうなのだから、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など工業化が進む国々の電力需要は伸びる一方である。
中国には13億人、インドには11億人の巨大な人口がいるのだ。特に中国は過去5年、2ケタの勢いで電力需要が伸びている。つまり、世界を見渡すと電力需要は衰えるどころか、増えるばかりなのである。
さらに21世紀に入って、二つの問題が発生した。ひとつは「地球温暖化は世界の危機だ。その防止のため、CO2排出量を削減しよう」という合意が先進国で生まれたこと。
ドキュメンタリー映画「不都合な真実」はご覧になっただろうか。あの中でアルバート•ゴア元米副大統領が力説していた話だ。
CO2を大量に発生させる元凶は、化石燃料(石油、石炭、LNG=液化天然ガスなど)を燃やして動く機関である。例えばガソリンで走る自動車はその代表。そして、言うまでもなく火力発電もそのひとつだ。
日本の場合、発電電力量の60%が火力発電によってまかなわれている(ちなみに水力は9%、原発は31%。いずれも06年)。
電力需要は増える一方なのに、「地球温暖化の元凶CO2を出すから、火力発電の稼働は減らしていきましょう」という無理難題が持ち上がったのである。
風力発電もソーラー電池も、日本や欧米のような電力大量消費社会を支える主軸としては、まったく歯が立たない。じゃあ、仕方ない。原子力発電しか選択肢がないですね。政府はそう判断するわけだ。
エコ派には皮肉なことに、原子力発電はCO2をほとんど発生させないのだ。
もうひとつの問題は、石油価格の暴騰である。1年前にはリッター90円代だったガソリンが08年夏には180円代が当たり前というメチャクチャな上昇ぶりで、これはみなさんご存知のとおり。
これでますます「火力発電は燃料コストが高すぎて割に合わない」という状況になってきた。さらに01年の同時多発テロ以降、イラクやアフガニスタンでの戦争、テロや誘拐の多発と、中東情勢が不安定になってきたため、エネルギーの中東依存度を下げようという動きが先進国で始まった。
かくて、まずアメリカが2005年に「包括エネルギー政策法」で約30年ぶりに原発推進に方向転換したのを皮切りに、世界中で「脱原発はもうやめた」という動きが始まった。
『週刊エコノミスト』08年6月24日号によると、世界でいま439基の原発が稼働中であり、36基が新たに建設中、93基が計画中だそうだ。
反原発運動はなやかなりし01年、連邦議会が「脱原発法」を可決、19基の原発を2021年をめどに閉鎖することを決め、環境保護派から聖地のように絶賛されたドイツでさえ、世論は激変している。
世論調査によると、原子炉の稼働継続賛成派は54%にも上っている。今年8月の原油価格は、脱原発法が可決されたころ(1バレル20ドル)の6倍。おかげでドイツ国民は電気代の値上がりに泣かされている。そんな「財布の事情」も背景にあるようだ(『Newsweek』08年9月3日号)。
地球温暖化に抵抗すると、原発が激増する。エコ派にとっては悪夢のようなアイロニーである。この矛盾をどう解決するのか。かつての環境保護派は沈黙している。誰か答えを知らないか?
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