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平成大不況唯一の成果は優秀な人材が企業からNPOに流出したこと ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

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「勝ち組vs負け組」「正規雇用者vs非正規雇用者」「ワーキング•プア」「ネットカフェ難民」「貧困問題」などなど。

 言葉は違えど、結局指し示すところはみんな同じだ。日本が「一億総中流社会」から「貧富格差社会」へ、はっきり変化したという事実である。そして、この変質はもう元に戻ることはないだろう。

 日本企業は平成大不況にすったもんだ苦しんだあげく、かつて「日本的経営の美徳」と言われた「終身雇用制度」(同じ会社が新卒入社から定年退職まで雇用を保障すること)を破壊するという、昔なら「やっちゃいけないこと」に手を染めた。つまり「リストラ」という美名でごまかした、従業員の「首切り」「解雇」だ。英語でいうlay offである。

(1)正規雇用者をクビにする(2)人件費の安い非正規雇用者(『派遣社員』『契約社員』『アルバイト』『パート』など)で補充する(3)新卒採用を減らす(これは若年失業者を増やす原因になった)(4)業務をコストの安い外部企業に委託する(アウトソーシング)(5)生産部門など業務の一部を人件費の安い海外に移す。

 どれも「人件費」というコストを削減しようとしているという点では同じだ。「人件費」とは給料だけを意味しない。医療保険、年金、家賃や通勤費補助など、正規雇用者なら当然の権利として認められている金銭的支出が徹底的に削られる。

 少子高齢化で、国内市場の拡大など絶望的だ。売り上げが伸びないなら、コスト(支出)を削るしかない。

 この首切りという「やっちゃいけないこと」、やってみると「意外においしい」ことを経営者は覚えた。みんなが一斉にやったので社会的非難も拡散してしまった。コストダウンで経営が改善されると経営者や企業は株価で評価アップされるし、製品やサービスを値下げできれば消費者にも喜ばれる。

 というわけで、一度「やっちゃいけないこと」をやって味をしめた経営者が、昔の終身雇用制に戻ることなど、もうありえないだろう。

 困ったことに、労働者と、安価な商品を求める消費者は、往々にして一枚のコインの裏表だ。場合によってはネット株や401K(年金ファンド)の株主かもしれない(こういうふうに市民が株主でもあり企業従業員でもあるという状態をロバート・ライシュは『スーパーキャピタリズム』と呼んでいる=『暴走する資本主義』)。

 こうして、貧困に陥った消費者は安価な製品を求める→企業はコストダウンに励む→またレイオフが増える→自分の首を絞めると、日本社会はとんでもないネガティブ•スパイラルにはまり込んでしまったのである。そこにサブプライムローン危機まで襲いかかってきたものだから、もう地獄だ。

 明るい材料はないのか? 申し訳ないが、まったく見えない。

 長らくの雇用慣行を捨てて冷静に考えてみると、企業は慈善組織ではないことを経営者は悟ってしまった(終身雇用制度下の日本企業は福祉組織的な性格を帯びていた)。

 利潤を上げ株主に利益を最大限還元するのが彼らの仕事だから、今のコースを変更する経営上の理由はない。好き嫌いや善悪は別にして、それが資本主義の現実だ。日本でも、いつの間にか認識がそういうふうに変化してしまった。

 唯一の希望ではないかと私が思うのは、こうした貧困•格差問題に取り組む新しい世代の人材が、NPOを舞台に次々に誕生していることだ。

 例えば「自立生活サポートセンター•もやい」は、住所不定状態にある人たちにアパート入居時の連帯保証人の提供や、生活困窮者への生活相談を活動の二本柱にしている。その事務局長•湯浅誠は、1966年生まれ、東大法学部の博士課程修了という経歴を持つ(筆者注:09年に民主党/鳩山政権が誕生して国家戦略局参与になった)。

 私もインタビューしたことがある。穏やかで心優しく、かつ頭の切れる人だった。

「貧困は自己責任」という言説に反論し、人々が滑り台を落ちるように貧困に陥っていく原因を分析した「反貧困」(岩波新書)で大佛次郎論壇賞を08年に受賞している。

 NPO「コトバノアトリエ」を主宰する山本繁は1978年生まれ。慶応大学環境情報学部を卒業後、02年からNEETや引きこもり、不登校の若者のための自立支援活動をしている。

 インターネットラジオ「オール•ニート•ニッポン」、漫画家や芸術家志望の若者のためにグループホームを借り上げる「トキワ荘プロジェクト」など、アイディアと行動力が豊かだ。何より本人が明るく元気なので、見ていて楽しい。

 湯浅や山本のような若い世代のアクティビストたちは、これまでの団塊の世代の「市民運動家」とはまったく違う。まず「政府は何かして解決しろ」とは言わない。政府に要求せず、自分たちの手で解決策をつくる。政策提言をする。政府に要求しないから、政党とつながりがない。

 マルクス主義や社会主義とも無縁のポジションから出発している。だから政治色も政党色もない。非常に現実的かつ実務的である。インターネットを組織の要にしている。たまにリアルの世界で示威行動もするが、ラディカルなところがない。

 一昔前なら、おそらく湯浅や山本のような「高学歴」な人材はNPOに「就職」したりはしなかっただろう。「いい大学出て、いいカイシャに入って、定年まで安泰」という終身雇用制を基盤にした

「ジャパニーズ•ドリーム」がこっぱみじんに破壊されて良かったことといえば、NPOに有能な人材が流入していることくらいだろうか。(文中敬称略)
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