最強の社会落後者・穂村弘を愛す [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]
(問)次の英文を訳しなさい。バーズオバフェザー、フロックトゥゲザー。
わからん? 高校の英語の授業でやったじゃないですか御同輩。「同じ羽根の色の鳥は群れたがる」。すなわち、同類、相求む。
小生も例に漏れません。自分と似た人を本で読んだりすると、おともだちになれそうで、何だかウレシクって、勝手に親近感を感じちゃうンです。
ただ小生の場合困ったことは、本欄でも書きましたが、世間様が騒いでいるものを疑うという悪癖があるため、未だにワンセグもポッドキャスティングもチンプンカンプン、DVDレコーダーさえ未所有という情けないありさま。こんな痴れ者が親近感を抱く方というと、やはり先方もどこか世間とズレてる。否「どこか」どころか「すごく」ズレてる人が多い。
例えば故・中島らも師。躁鬱にしてアル中。東京での対談の仕事に大阪から新幹線で出かけたはいいが、飲酒酩酊のうえ仕事すっぽかして帰阪、なぜか岐阜やら京都やらで途中下車を繰り返して行方不明に。最後は大麻所持で逮捕されたり階段から落っこちて物故されたりと、ここまで世間とズレると、親近感は通過して深い畏敬の念持て頭を垂れるほかありません。
その意味でここしばらく小生の密かなアイドルとなっているのは、穂村弘氏であります。
誰やねんそれ。はい、歌人さんです。最初に断っときますけどね、すんごくいい短歌をつくる人ですよ、ほむほむは。「どこからこんな言葉が出てくるのか」という切れ味の鋭い言葉を連ね、鮮やかな都市や恋の情景を切り出してみせる。
「終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて」 「ハイジャック犯を愛した人質の少女の爪のマニキュアの色」 「チューニング混じるラジオが助手席で眠るおまえに見せる波の夢」
著書多数。「もうおうちにかえりましょう」「本当はちがうんだ日記」等々。が、句集よりエッセイ集が多い。といいますのは、その世間からのズレっぷりが、もはや芸とも呼べる域に達していて、そっちの話の方がおもしろいからであります。
1962年生まれの課長さんだそうですから、小生と変わらぬおっちゃんです。が、彼は生まれてこの方一度も独り暮らしをしたことがない。家を借りたことがない。海外旅行、料理、洗濯、骨折、手術、投票、合コン、ソープランド、献血、犬・猫を飼う、髪形を変える、一切したことなし。
結婚など論外。チューリップとバラの区別がつかない。近眼なのだがメガネにレンズが入っていない。コンタクトレンズを入れ、わざわざ素通しのメガネフレームだけを着用している。特技は、午前3時の寝床の中、仰向けの姿勢を崩さぬまま棒状の菓子パンを食い尽すこと。
ああ、なんてすごいんだ。
穂村氏は静かに自分を笑います。自分は「人生の経験値が低い世界音痴」だ、と。
でも、本を閉じたあと、彼のささやく声が聞こえるのです。
「でも、ぼくはちっとも困ってないよ」と。
そう、大勢が「やらなくちゃいけない」と血眼になっている事なんて、実はほとんどどうでもいいんじゃないの?
「世間の常識」ってやつがハナクソのように思えてきます。
穂村さん、今度しゃぶしゃぶでも一緒に行きませんか? 38歳になるまで食べたことがなかったんでしょ?
ぼくは酒が一滴も飲めません。イエイ。
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