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なぜウオークマンはiPodに負けたのか ["NUMERO Tokyo"(扶桑社)連載コラム]

 かつて「携帯型音楽プレイヤー」の代名詞は「ウォークマン」だった。

 言うまでもなく、これは「ソニー」が1979年に発売した携帯プレイヤーの商品名だ。が、その後もメディアをカセットテープからCD、MDへと変えながら全世界に普及したため、メーカーがソニーでなくても「ウォークマン」といえば「携帯音楽プレイヤー」のこと、というふうに「固有名詞」ではなく「普通名詞」になってしまった。

 ところが、その30年近く続いた王座が、奪取されてしまった。

 そう、2007年のいま「携帯型音楽プレイヤー」といえば、真っ先に思い浮かぶのはアップル社の「iPod」だろう。

 市場シェアの数字を見てみよう。07年5月までの1年間、アップルが一貫して50%前後、つまり市場の半分を独占しているのに対して、ソニーはまだ30%に手が届かない。東芝、松下電器、シャープに至っては10%にも満たない有り様だ(BCN調べ)。

 断っておくが、デジタル・オーディオ・プレイヤーを初めて発売したのはアップルではない。先頭を切ったのは、韓国や米国の中小メーカー。1998年のことだった。ソニーも2000年に携帯電話に音楽再生機能を組み込み、すぐ後を追った。意外なことに、アップルがiPodを売り出したのは、このソニーよりさらに遅い2001年なのだ。

 技術的な話に深入りすると途方もなくややこしくなるので、こんな例えで説明しよう。軍事史でよく出てくるジンクスである。「一度戦争に勝った国は、その勝因にこだわりすぎて、次の戦争ではその勝因がゆえに負ける」。

 ソニーは、これまでに少なくとも2回、世界の人々のライフスタイルそのものまで変えてしまう、大変革を成し遂げている。

 一つ目は、先ほど述べた「ウォークマン」の発明である。今となっては嘘のような話だが、当時は「録音のできない再生専用テープ機なんて売れない」というのが家電業界の常識だったのだ。

 二つ目は、1982年にCDをフィリップス社(オランダ)と共同で開発し、アナログ盤を駆逐してしまったことだ。CDも「アナログ盤や再生機が普及しているのに、別規格の音楽メディアなど必要ない」という「業界の常識」を破壊してしまった。

 自社で開発した独自の技術と製品で、思い込みをひっくり返し、「世界標準規格」の王座に自らが就く。これがソニーが「戦争」に2連勝した「勝因」である。が、今度はどうやらそれが裏目に出たようだ。

 例えば、アップルが音楽データの記録に使った技術は、当時世界でもっとも普及していた記録技術「MP3」と互換性があった。が、ソニーが使った自社技術「ATRAC3」は互換性がない。つまりソニー系のウエブサイトからダウンロードした音楽は、ソニー製の再生機でないと鳴らせない。これは不便だ(2004年10月になってようやくMP3と互換性を持たせた)。

 私も店頭で聞き比べたことがあるが、確かにソニー規格の方が音はいい。技術的にもMP3より上質だ。が、ここでソニーは「戦勝国のジンクス」にはまった気がする。MP3より自社技術の方が優れているのだから、ウォークマンやCDのように逆転できると読んだのではないか。

 傘下に「ソニー・ミュージックエンタテインメント」(SME)というレコード会社を抱えていたことも逆作用した。必要以上に「著作権保護」と「自社アーティスト主義」に気を遣わざるをえなくなったのだ。

 例えば、レコード会社と関係のないアップル社の「iTune Music Store」(当時)は、当初からどのレコード会社のミュージシャンであろうと揃えていたし、そこからダウンロードした音楽をソフト「iTune」(しかも無料配布)でCDにコピーできた。

 ソニーは、この流儀に出遅れた。

 ソニーMEのサイトには自社ミュージシャンしかなかった。しかもCDに焼けないから、ダウンロードしても、ソニーの再生機を買うしかない。

 しかし、宇多田ヒカルがどこのレコード会社で倖田來未はどこで、なんて消費者には関心のない話だ。調べるのも面倒くさい。しかも、もし所属がSMEでなければ、ソニーの再生機を買っても聞けないかもしれない。これは生産者の都合であって、消費者にとっては馬鹿げた不便でしかない。

 ソニーの「ATRAC3」と「MP3」の音の違いを日常の使用で判別できる消費者など、まずいなだろう。結局、技術や音質で多少見劣りしようと、「道具として便利な方」に消費者は流れたのである。

 以下、私見。ソニーのライバルは長らく同じ「家電業界」の松下や東芝だった。まさか「ヨソのムラ」から来たアップルに主導権を取られるなどとは思わなかった。案外、現実はそんなものかもしれない。

Apple iPod classic 120GB ブラック

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  • 出版社/メーカー: アップル
  • メディア: エレクトロニクス






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