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日本のチャリティー・コンサートって田舎の中学の弁論大会みたいだぞ [週刊金曜日連載ギャグコラム「ずぼらのブンカ手帳」]

 ここだけの話ですが、小生実は大変な拗ね者でありまして、世の大勢が愛好するものに背を向けたがる悪癖があります。讀売ジャイアンツ、ドコモの携帯電話、ウィンドウズにイナバウアー、桜塚やっくん等々、その忌避の対象は無差別きわまりない。よーするにマイナー贔屓。多数派を疑う。流行りものを嫌う。当然、世事に疎くなります。よくまあこんな痴れ者に記者が勤まるものであります。

 そんな虚けでありますから、1980年にアイルランドから「U2」というマイナーな4人組バンド(11月末に8年ぶりに来日しましたね)がデビューしたときも、水晶のようなギターとダイナミックな歌に一撃で魅了されたくせに、3年して彼らが「WAR」というアルバムで世界的大スターになるや「もういいや」と聞くのをやめてしまいました。わしが聞かんでもみなさんがスターにしてくれますわな、と。

 そのU2、正確にはシンガーのボノに再会したのは、93年でした。大学院の図書館で手に取った雑誌を読んでいて、驚きのあまり椅子から転げ落ちた。ボノが、こともあろうに小説「悪魔の詩」の作者であるインド系イギリス人作家・サルマーン・ルシュディーと肩を組んでいる写真がデカデカと出ているではありませんか。

 これがいかに危険な行為か、おわかりでしょうか。ルシュディー氏は、89年、イランのホメイニ師によって、その小説「悪魔の詩」がイスラム教を冒涜しているとして、死刑を宣告されているのです。

 この死刑宣告はルシュディー氏本人以外にも、出版や翻訳に携わった者全てに適用され、実行者には数億円の懸賞金まで約束されました。日本では翻訳者の五十嵐一・筑波大助教授が91年に殺害されたほか、トルコやイタリア、ノルウエイでは合計40人近くが死傷しています。

 そんな中、写真だけならまだしも、U2はあろうことかルシュディー氏の詞を自分たちの曲にして発表までした。これはすなわち、自ら進んでイスラム原理主義者たちの暗殺リストに載ることに他なりません。

 さすがの小生も、これにはおったまげた。ボノは、命がけで、宗教による表現の自由の弾圧に抵抗することを宣言していたのです。表現の自由は芸術家の命だ。ルシュディーを殺すならおれも殺してみろ、と。

 さて、ここで高慢かましてよかですか? 日本でも「チャリティー・コンサート」なるものが大はやりです。曰く「エイズ撲滅」「環境保護」「戦争反対」等々。いや、いいんですよ。みなさん善意でやってらっしゃる。やらんよりやったほうがよっぽどいい。やってください。

 でも、何だか、どれも「とっくに社会で合意済みの話」ばかりじゃないですか。田舎の中学の弁論大会みたいだ。

 英語で「見解が分かれる」ことをcontroversialといいます。ボノの例だってそう。アメリカのビースティー・ボーイズが仕掛けた「フリー・チベット・コンサート」も、コントロバーシャルな代表例でしょう。

 賛否はともかく、人々は「悪魔の詩」だけでなくイスラムについて、表現の自由について、中国のチベット自治区の人権問題について関心を持ち、考えるようになった。ポピュラー音楽には、そんな力だってあるのです。

 なのに。日本では、いじめられ、自殺を考える中学生を励ます歌を誰も出さないのは、なぜなんでしょうね。親に虐待される子どもの絶望を代弁して歌う人がちっとも出て来ないのは、なぜなんでしょうね。 

 日本の自称「アーティスト」さん。何で、そんなに静かなんですか?



War

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Universal/Island
  • 発売日: 2008/07/22
  • メディア: CD



悪魔の詩 上

悪魔の詩 上

  • 作者: サルマン・ラシュディ
  • 出版社/メーカー: 新泉社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本



悪魔の詩 下

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  • 作者: サルマン・ラシュディ
  • 出版社/メーカー: 新泉社
  • 発売日: 1990/09
  • メディア: 単行本



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